閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

unlock#1 [inspired by 『アルジャーノンに花束を』ダニエル・キイス]

http://specters.net/deathlock/
東京デスロックのアトリエ公演

  • 作・演出:多田淳之介
  • 美術:鈴木健
  • 出演:松田弘子,熊谷祐子,村井まどか,佐藤誠,佐山和泉
  • 時間:85分
  • 劇場:小竹向原 アトリエ春風舎
  • 評価:☆☆★
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東京デスロックの公演を見るのはこれが二回目.最初に見たのが昨秋の『再生』である.この作品では,集団自殺前夜の旅館の一室での宴会の場面が再現されるのだが,参加者がひたすら激しく踊り狂う狂騒的な宴会の様子を三度繰り返すだけ,という演劇的趣向の斬新さにはずいぶん感心した.物語性を拒否しながら,演劇性を追求した舞台に,ふつうの芝居は絶対やらない,というまだ若い制作者の挑戦的な心意気を感じたのだ.

今日の舞台美術は雑然とした倉庫の中といった感じである.照明と音響のミキサーが片隅にあり,むき出しのコード類,壊れているらしいパソコンなどが無造作に転がっている.劇場内壁際三方が客席となっている.客席は全部で50席弱.
[以下芝居の内容にふれています]
最初に携帯電話電源の注意をしたあと,作品終盤までずっと隅っこにすわったままの段ボールのロボットを除けば,登場人物は五人.そのうち女性一人は舞台中央壁際でマックを操作してWikipediaの記事などを読み上げる.仲のあまりよくない同世代の女性二人(彼女たちは最初と最後のキャッチボールをしながら台詞をやりとりする)と若い男性と中年女性の二組が交互に「コント」を演じる.各コントはある種の連想ゲームのような形でゆるやかに連鎖している.男=女組のコントで,パソコンの知識がほとんどない中年女の秋葉原のパソコンショップでの店員とのやりとりを扱ったものが最初のほうに出てくるのだが(同じ内容のスケッチを最初は日本語で,次ぎに英語で繰り返す.このナンセンスなコントは面白かった),ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)が同じISPの略号で表される「イケブクロ・ショッピングパーク」という別の事柄につながり,次は女性二人による「イケブクロ・ショッピングパーク」を舞台にしたコントが始まるといった具合である.
一貫性のある物語作りを拒否して,掛詞的な仕掛けでナンセンスなシーンをつなげていくことで現在から未来につながる「何か」(よくわからないのだけど)を示唆しようとしているのだが,各エピソードの表現の掘り下げが全般に浅くて物足りない.断片的なイメージによるコラージュ的効果をねらったのかもしれないが,ちょっとした思いつきのアイディアの域を出ていない場面が多く,表現としての厚みに乏しい.最初に設定した土台が曖昧,普遍的すぎて,それが逆に作者の想像力をしばってしまった感じがした.今回の「unlock#1」への期待は大きかったのだが,物語拒否と前衛志向は前作から引き継がれていたものの,作品としては失敗作だと僕は思った.

追記:
「アトリエ公演」というのをやたらと強調している意味が実はよく分からなかったのだが,演出家のblogの記述やマイミクの人の指摘でなんとなくわかってきた.観客には普段見せない創作の過程を公開するという趣旨らしい.work in progressみたいな意味で使っているようだ.公演中にも積極的に変更を加えているようだが,この延長線上に本公演があるのだろうか? 
こうした「作りかけ」の半完成品を観客に見せるということに意義が実のところ今ひとつよくわからない.作品の生成過程に立ち会う感覚の面白さを,果たしてああいう形の公演で観客は味わうことができるのだろうか? いずれにせよかなり仲間内むけのひとりよがりな発想であるような気がするのだが.まあつまらないと思えば見に行かなければよいのだし,あれはあれで面白いと思う人も多いようなので構わないのだけど.