閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

いやむしろわすれて草

五反田団
http://www.uranus.dti.ne.jp/~gotannda/

  • 作・演出:前田司郎
  • 照明:岩城保
  • 出演:兵藤公美、望月志津子、端田新菜、後藤飛鳥志賀廣太郎、大竹直、前田司郎、山本由佳
  • 上演時間:1時間20分
  • 劇場:駒場東大前 こまばアゴラ劇場
  • 評価:☆☆☆☆
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五反田団の公演は今回が二回目。前回、昨秋にアゴラ劇場で観た『さようなら僕の小さい名声』は、昨年僕が観た芝居の中でもベスト5に入るくらい僕の嗜好に合った作品だった。矮小な日常性と夢の幻想性が組み合わさった脱力感あふれる独自のセンスには大いに魅了された。
今回の『いやむしろわすれて草』は2004年に初演された作品の再演である。病弱な3女を中心に語られる4人姉妹の物語。
4人姉妹の人物関係を、定型的であるがディテイルにこだわった人物造型によって、リアリティあるものとして提示することに成功している。脚本と演出の繊細な要請に見事に応えた役者たちの演技力と想像力を賞讃したい。

[以下作品の内容に触れている]

現在と過去の二つの時間の流れが作品の中で再現される。現在は3女が長期入院している病院の病室。この三女を中心に、その病室に見舞いに来る姉妹や父親、隣人、三女の病院での唯一の友人である入院患者とその夫との対話で物語は展開していく。
もう一つの時間、過去は三女の回想というかたちで現れる。四女がまだ幼い頃、三女が中学生の思春期の時代の家族の思い出である。母親は四女が物心つく前に突然失踪している。八百屋の父親は誠実に4人娘を育て上げるが、病弱の娘をかかえ、母親のいない家族にはどこか余裕がない。4人娘のかしましさと無邪気な明るさにもかかわらず、この家族には空虚感と欠落感が漂っている。この暗い影の予感は、観客がこの4人姉妹の将来を知っているからこそ、生じるものなのかもしれない。
3女の病室でのやりとりの中で、三女自身の病と将来への不安のほか、年老いた父親との生活の問題、長女の結婚、次女の帰郷など、彼女たちが現在抱える日常的な不安、そして絶望が次々と浮かび上がってくる。しかしそうした将来への暗さの中、互いに配慮し合う姉妹の姿は優しく美しい。悲観と諦念の中に、かすかな希望のようなものも感じさせる。
ラストは少女時代の3女がだだをこねて泣き叫ぶシーンで終わる。あの炸裂するような感情の迸りにはおそらく曖昧な動機しかない。三女の痛切な思いはおそらくことばで説明しがたいものではあるが、共感することはできるはずだ。