閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

プルートで朝食を

プルートで朝食を (2005) BREAKFAST ON PLUTO

語学学校でゲール語を教えているアイルランド文学が専門の先生が推薦していた作品。同じ監督の『クライング・ゲーム』の奇妙な展開がとても印象的だったと雑談の中で話したところ、この映画を見ることを勧められた。
クライング・ゲーム』も奇妙奇天烈なとらえどころのない話だったが、この映画も相当ヘンな話である。
1970年代のIRAとイギリスの争いが多くの犠牲者を出す物騒な世相を背景に、一人の「オカマ」の波瀾万丈の半生をポップに描き出す実に奇妙な味わいの傑作。教会の前に捨てられ、父親と母親を知らず、その「性同一性障害」ゆえに養子先の家族からもうとまれ、コミュニティから放逐されてしまう不幸の数々にもかかわらず、主人公の「子猫kitten」は絶望の泥沼にはまり込むことなく、自己をしっかりと確立し、世界をひょうひょうと渡り歩いていく。30数章の短いエピソードはそれぞれ極めて濃厚な味わいを持ち、一人の魅力的な「オカマ」を通し、軽やかにポップに、しかし印象深いやり方で、時代の空気を表現する。エンディングは実に爽やかで心地よい幸福感をもたらす。
キリアン・マーフィは先日見た『麦の穂を揺らす風』の主演俳優でもあるが、『プルート』での「オカマ」役で彼の演技が示すニュアンスの豊さは本当にすばらしい。