閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん):三笠山御殿の場

五月大歌舞伎@新橋演舞場 夜の部
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/2007/05/post_3-Highlight.html

妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)三笠山御殿の場

  • 作:近松半二、三好松洛ほか(1771年)

         杉酒屋娘お三輪  福 助
    烏帽子折求女実は藤原淡海  染五郎
           入鹿妹橘姫  高麗蔵
          豆腐買おむら  歌 六
    漁師鱶七実は金輪五郎今国  吉右衛門

  • 評価:☆☆☆★

大化の改新」の政変を時代設定として用いる義太夫狂言。定番ものであるが僕は今回初めて見た。
いかにも義太夫狂言ぽい悪趣味と荒唐無稽さに満ちた時代物。梗概を読んでそのドラマの倒錯性に好奇心をそそられる。
前半は女官の集団による陰湿かつ執拗な町娘いじめ。そのからっとした明るい残酷さと徹底的にいじめ抜かれるお三輪が放つ濃厚なエロティシズムに、思わず腹の底から黒い笑いが浮かび上がる。福助のいじめられ姿は実に色っぽい。そして片思いの恋人の心変わりが明らかになるや、なぶりになぶられたこの娘が一転して憤怒の形相に変わる劇的な展開。この豹変による人格のコントラストが面白い。でもすぐに刺されて、苦しみつつ死んでしまうのだ。しかしその死が愛する男の政治的野望の助けとなると知り、死と引き換えに男に奉仕できるという倒錯的喜悦の表情で死んでいくのだ。
憤怒の形相の女の生血が、恋人の政敵を倒す力になるという、荒唐無稽な魔力を、死ぬ間際にすんなりと受け入れてしまう不条理の強烈さに唖然としてしまう。全く何というひどいお話だろう。