閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

孤児のミューズたち Les Muses Orphelines

Studio Life
http://www.studio-life.com/stage/muses/index.html

  • 作:ミシェル・マルク・ブシャール Michel Marc Bouchard

http://www.cead.qc.ca/repw3/bouchardmichelmarc.htm

  • 訳:佐藤アヤ子
  • 演出・台本:倉田淳
  • 美術:松野潤
  • 照明:森田三郎
  • 衣裳:竹原典子
  • 出演:楢原秀佳、倉本徹、小野健太郎、林勇輔
  • 劇場:両国 シアターΧ
  • 上演時間:2時間20分(休憩10分)
  • 評価:☆☆☆☆
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カナダのフランス語圏、ケベック州出身の作家の作品。1957年生まれのブシャールは現代のケベックを代表する劇作家のようだ。彼の作品は昨年夏のパリ滞在中、私立の小さな劇場で『大洪水の原稿』を見ている。
http://d.hatena.ne.jp/camin/20060902/1158512692
こちらの語学力不足のため展開はあまりよく理解できなかったのだが、詩的なイマージュに富んだ印象的な舞台で、この作家の作品は機会があればまた観てみたいと思っていた。『孤児のミューズたち』(「孤児」は「ミューズたち」の付加形容詞)は彼の代表作の一つで、映画化されたという『Lilies』という英題で映画化された『Les Feluettes』(やせこけた女たち)に並んで、人気の高い作品のようだ。
Studio Lifeの公演は今回が初めて。この団体についての予備知識は全くないまま劇場に行ったのだが、客を迎えるスタッフもやたらと愛想と元気のよい「ホスト風」ののり。役者のサイン入りプロマイドが売っていたが、写真を見る限りはイケメン揃いというわけでもなさそうだ。客層は9割が中年女性だった。男だけの演劇集団であることを上演後知る。今日の作品は三人姉妹+弟の4人兄弟だけが登場人物。女性の人物は当然女装で演じられる。

脚本は素晴らしかった。ケベックの保守的なカトリックの町に住む一家。智恵遅れで小学生程度の知力しかない27歳の末娘、マジメそうだが町のさまざまな男たちと長続きしない恋愛関係を持つ次女、軍人となりドイツに赴任しているレズビアンの長女、「作家」と自称しつつも一冊の本も書いていない女装癖のある長男の4人が、町はずれの家に住んでいる。彼らの父親は第二次大戦中にヨーロッパ戦線で死に、彼らの母親は20年前、スペイン人の愛人とともに夫と子供を捨て失踪してしまった。
その彼らを捨てた母親が、復活祭の日に20年ぶりに家に戻って来るという。ドイツに赴任中で長らく家に戻っていなかった長女も、末娘の「戦略」によって呼び戻され、4人は20年ぶりの母親との再会を待ち受ける。

『ゴドー』+『三人姉妹」、他いくつかの名作へのオマージュが含まれているような感じがした。彼らが不安とともに待ち続ける「ゴドー」が母親である。その待っている間に家族という幻想への絶望、兄弟間の確執があきらかになっていく。

演技は全般にオーバーアクション気味だが、原作の情感はよく伝えていた。しかし女装の役者のグロテスクさは僕には最後まで払拭できず。決して悪い演出ではない。とりわけ後半、母の到着を待つ際の焦燥感、期待感の表現、「戦略」があきらかになってしまったあとの演出は感動的であったが、僕は最後まで女装男優ゆえの際物的な雰囲気は払拭できなかった。戯曲自体にこうした仕掛けで上演する意義があんまりないように思える。やはり3人姉妹は女優で見たい。