- 作:エドモン・ロスタン Edmond Rostan
- 訳:辰野隆、鈴木信太郎
- 演出:栗田芳宏
- 振付:藤間紫乃弥
- 音楽:宮川彬良
- 企画・台本:笹部博司
- 美術:朝倉摂
- 製作:メジャーリーグ
- 出演:市川右近、安寿ミラ、加納幸和、坂部文昭、たかお鷹、桂憲一、市川猿弥
- 劇場:青山 青山円形劇場
- 上演時間:2時間40分(休憩15分含む)
- 評価:☆☆☆☆★
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メジャーリーグ製作、栗田芳宏演出。市川右近がシラノ役、安寿ミラがロクサーヌ、桂憲一がクリスチャン。他の役者は複数の役柄を演じる。
黒い床に直径3メートル、高さ30センチが2段になった円形の黒い台だけの簡素な舞台美術。照明は全般に暗めで、蝋燭光を思わせる黄白色を基調としたしぶいもの。そのため眠たくなってしまったところも若干あったが、ラトゥールの絵画を想起させるような、ニュアンスに富んだ柔らかい陰影を効果的に使った照明だった。
円形劇場の壁面が定式幕で覆われ、市川右近、猿弥が出演していることから、歌舞伎的な様式での演出かと思えばさにあらず。
役者は四方にのびた細長い「花道」から出入りする、一人複数役を早変わりで演じるのが若干歌舞伎的と言えるかもしれないが、ことばの演劇というフランス劇の伝統の魅力をしっかりと伝える非常にクオリティの高い舞台だった。
美術が簡素な分、役者の衣装は、作品の舞台である17世紀の貴族を思わせる、贅沢で凝ったもの。特にロクサーヌ役の安寿ミラにこうした豪華な衣装がよく映える。
右近のシラノの人物造型は情緒に溺れた湿っぽいものではない。軽やかでさくっとした性格で、報われない己の恋をうじうじと悩んだりしない。しかしその性格の繊細さは、恋の表現のナイーブさの中でしっかりと表現されている。辰野隆の達意の訳文により、修辞的文句をリズムよく並べる調子が心地よい。洗煉された弁舌や動きの端々に、職人としての役者の優れた技術を感じさせる。
安寿ミラ演じるロクサーヌも世間知らずの人形のような娘ではない。恋の心地よさに陶酔し、その美貌によって人を繰る手管を楽しむようなところもしっかりと表現されている。彼女の演技はちょっとした台詞の変化と体の動きで、観客に言語外にあるメッセージを巧みに伝える。
また安寿ミラの堂々とした美しさとコケットリーの素晴らしさといったらない。極度にバタ臭い芝居にもかかわらず何の違和感も感じさせない。
もともと達者な役者たちの能力を自由に引き出し、見事なアンサンブルを作り出した演出手腕も大したものだと思った。
役者の魅力を最大限引き出すとともに、ロスタンの戯曲の演劇的仕掛けの素晴らしさをよく伝える舞台だった。
メロドラマ中のメロドラマであるような最後の場面、既に結末は知っているのに、役者の演技も演出も定型に沿ったものにも関わらず、シラノに感情移入し、ぼろぼろと涙を流しながらの鑑賞となった。