閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

楢山節考 (1958)

高橋貞二 息子 辰平
望月優子 妻 玉やん
市川団子 けさ吉
宮口精二 又やん

  • 評価:☆☆☆☆
                                                                                • -

長唄のBGM、義太夫節の語りと音楽が入り、冒頭も定式幕をバックに黒子が拍子木を鳴らすシーンから始まる。
背景は書き割りで、舞台美術は人形浄瑠璃のような雰囲気である。したがって人間の役者も、あたかも人形ぶりで演じているような雰囲気で、この様式感ゆえに過度の叙情に溺れるのが避けられている。
とは言うものの、後妻の玉やんがやってきて安心したおりんが歯を石臼にぶつけて折るシーンと最後の別れのシーンは痛切で涙腺を刺激する。考えてみれば最後に山に捨てられてしまうという観客にも登場人物にも周知の事柄に向かって一直線に進む、おそるべき単純明快な筋である。
楢山節考』の映画化作品としては、カンヌ映画祭で最高賞をとった今村昌平監督のものもある。今村の『楢山』は公開当初に見て、当時中学生ぐらいだった僕はとてつもない衝撃を受けたことを覚えている。木下の『楢山』も世評に違わない秀作であるとは思ったけれど、自分の好みとしてはもっとどろどろとした情念が描かれて、人間に野性味が感じられる今村の『楢山』だ。