閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

オール・ザット・ジャズ(1979)

ALL THAT JAZZ

  • 上映時間 123分
  • 製作国 アメリカ
  • 初公開年月 1980/08/
  • 監督: ボブ・フォッシー
  • 脚本: ロバート・アラン・アーサー、ボブ・フォッシー
  • 撮影: ジュゼッペ・ロトゥンノ
  • 音楽: ラルフ・バーンズ
  • 出演: ロイ・シャイダージェシカ・ラング、アン・ラインキング、エリザベート・フォルディ、ベン・ヴェリーン
  • 評価:  ☆☆☆☆☆
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ブロードウェイ出身の振付け師でミュージカル映画の監督でもあるボブ・フォッシーの自伝的作品。今更僕がここで感想を記すまでもなく、とてつもないほど素晴らしい作品だ。こんな凄い作品をこれまで観ていなかったとは!
僕がこれまで見たどのミュージカルよりも斬新で、洗煉されていて、独創的で、そして深いドラマがある。一言で言うと無茶苦茶格好いいミュージカル映画である。
ミュージカル・シーンは最後の40分間に集中している。それまでは回想と夢そして現実のエピソードが絡まり合い、一人の人気振付け師であり映画監督でもある人物のショービジネス生活を映し出していく。何人もの女性との恋愛、不規則で不健康な生活、愛らしい娘との至福のダンスレッスンなど、ショービジネスで成功を収めた人物の典型的な日常が、短いエピソードを重ねることで再現される。この小さなエピソードの脚本が実によくできている。それぞれのエピソードが一編の短編小説のような深い味わいを持つ。
後半は男が心臓発作に倒れ、入院してしまう。初めて経験する大病と死への恐怖。その死というリアリティを直視できない男は、病室でも相変わらず狂騒的・破滅的な生活スタイルを辞めようとしない。狭心症は悪化し、手術するはめになる。男は病の夢うつつの中で、彼の人生を回顧し、死に向かう彼自身をテーマにしたミュージカルを頭の中で作り上げる。自らの死をもショービジネスの中で昇華させることで、男はようやく自分の人生に向き合うことができた。
主人公を演じたロイ・シャイダーは、神業に思える素晴らしい演技で、男の屈折と退廃、そして優しさを表現する。男の娘役を演じたエリザベート・フォルティの愛くるしさもとても印象的だったのだが、残念ながら彼女の姿を見ることができるのはどうやらこの一作のみらしい。