閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

エディット・ピアフ〜愛の賛歌〜

http://www.piaf.jp/

LA MOME
THE PASSIONATE LIFE OF EDITH PIAF
LA VIE EN ROSE [米]
上映時間 140分
製作国 フランス/イギリス/チェコ
初公開年月 2007/09/29
監督: オリヴィエ・ダアン
製作: アラン・ゴールドマン
脚本: オリヴィエ・ダアン、イザベル・ソベルマン
撮影: 永田鉄男
美術: オリヴィエ・ラウー
衣装デザイン: マリット・アレン
編集: リシャール・マリジ
音楽: クリストファー・ガニング  
出演: マリオン・コティヤールエディット・ピアフ)シ、ルヴィー・テステュー(モモーヌ)、パスカル・グレゴリー(ルイ・バリエ)、エマニュエル・セニエ(ティティーヌ)、ジャン=ポール・ルーヴ(ルイ・ガション)、ジェラール・ドパルデュー(ルイ・ルプレ)
劇場:豊島園 ユナイテッド・シネマとしまえん
評価:☆☆☆☆

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伝記映画はどちらかと言うと苦手であるし、シャンソンにもあまり関心はないのだが、フランス語購読の教材としてピアフのシャンソンを使う予定があるので、その材料になればと思い見に行った。フランス映画で近年これほど大規模に日本で上映される作品は珍しいように思う。思いの外、非常に完成度の高いよい作品だった。
正統的な伝記映画である。伝説的大歌手ピアフのドラマチックな生涯を、大きく二つの時間軸から描き出す。一つは幼少期から、もう一つは四八歳の若さで死んだ彼女の後半生、第二次世界大戦後にアメリカにわたって以降の時間である。よく練り上げられた脚本によって生涯の重要なエピソードのひとつひとつがとても丁寧に再現されている。映像も味わいがある叙情的で印象的な場面が多い。
ここで描かれるピアフの人生は太く短く、しかし濃密な人生の典型例であり、あたかも自分の人生を燃料にして歌を作り上げていったかのような感がある。不摂生きわまる生活により四〇過ぎにして既に老婆のような容貌となった彼女の晩年は、燃え尽きた蝋燭を連想させる。
役者陣はフランス映画界の層の厚さを窺わせる充実ぶりである。とりわけピアフを演じたマリオン・コティヤールの、まさにピアフ自身が化身したような演技は強烈な印象を残す。特殊メイクによる老化の技術にも驚かされた。

ピアフの粘っこいからみつくような歌声はあまり好きではなかったが、映画で歌われる名曲の数々はこちらの音楽の嗜好を超越して心に響く。「r」音の響きがとても心地よい。

映画では死の間際にあるピアフが自分の人生を回顧するが、この映画の作り方自体が彼女のドラマチックな人生の回想となっている。記憶の底にあるエピソードが次々と暗闇から浮かび上がるような作りになっている。

僕にとって一番感動的だったエピソードは、大道芸人の父親と二人でドサ周りをしているときに幼いピアフがガラス越しに人形を見つめているシーンが最初のほうにあったのだが、このエピソードの続きに当たるシーンが死の直前の回想でとりあげられた場面である。雨宿りのため食堂に入ったピアフ父子、父親は胸から先ほどピアフがじっと見つめていた人形をそっと取り出して彼女に渡す場面である。つらいことばかりの人生を生きていけるのは、このようなささやかな喜びが時折与えられるからではないだろうか、と思う。死の直前に思い出す幸せな記憶というのはこのような類のものであるような気がする。