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ダム建設によって水没することになった廃村同然の集落で生活を続ける数世帯の老人たちの生活を15年にわたって追い続けたドキュメンタリー作品。
物凄く地味な作品なのだが、全く退屈することはなかった。今年僕が見た映画の中では圧倒的に印象的な作品となった。
老人たちはひっそりと村の自然のリズムに合わせて、村の消失ぎりぎりまで生活を続ける。恐ろしく孤独で静謐な生活ぶりだが、そこに悲壮感はない。自身が環境の一部となるその生き様には、その見かけの貧しさとみすぼらしさにもかかわらず、驚異的な充実と喜びがあることが、映像から伝わってくる。そしてこうした牧歌的世界が、今では既に存在しないことが冒頭のダム湖の映像で観客に既につたえられているだけに、フィルムに残された老人の笑顔と声が悲しくてならない。
古里への愛惜の思いを、これほど強く、豊かに表現した作品を僕は観たことがない。田園生活賛歌、そして若干の文明批判という極めて図式的なメッセージを超越するような、真摯さがこの作品には感じられるように僕は思った。
東中野での上映は5日までだが、とにかく一人でも多くの人にみて欲しい作品である。
この村の水没は日本の古里の消失を象徴するものだ。それは時代の必然であるかもしれない。しかしその必然と引き換えに失うものの貴重さに、我々はこの作品を観て、気づかされるだろう。
田園の記憶への崇高な哀悼歌である。その調べが底抜けに無邪気で明朗であるだけに、悲しみも深い。