閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

三文オペラ

[作]ベルトルト・ブレヒト
[音楽]クルト・ヴァイル
[翻訳]酒寄進一
[演出]白井晃
[音楽監督]三宅純
[歌詞]ROLLY
[美術]松井るみ
[振付」井手茂太
[出演]吉田栄作 篠原ともえ/大谷亮介 銀粉蝶 佐藤正宏 猫背椿ROLLY
[演奏]伊丹雅博 宮本大路 渡辺等 佐藤芳明 荻野清子 平ヶ倉良枝 斉藤晴

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鉄骨を組み合わせて作られた三階建ての美術セットが、世田谷パブリックシアターのたてに伸びる細長い舞台空間を覆う。音楽家たちは舞台後方で演奏する。
翻訳・歌詞訳とも新たなものだというが、全般的には原作のイメージを踏襲したオーソドックスな『三文オペラ』であるように思った。
伝統掲示板を使っての「注釈」や舞台の物語と音楽のシーンの分離など、ブレヒト自身による注釈が現代的でスマートなかたちで取り込まれている。
時代は現代に設定したとのことだが、同時代性は特に強調されているわけではない。場所もアジア・日本というよりは無国籍風で特定しがたい。映画『ブレードランナ』や『スワロウテイル』で描き出されていた近未来の都市の片隅の雰囲気が漂う美術だった。
しかしこの舞台の抽象性、曖昧さが、効果的に作用していたかどうかは疑問に思った。舞台設定の浮遊感に演技者たちの芝居も安定感を欠いたものになってしまったように見えた。

出演者の中では、主人公のマックを平然と二度にわたって裏切る娼婦を演じたROLLYが圧倒的に印象に残る。何を考えているのかわからないアンニュイな雰囲気を作るうまさ、そしてほかの出演者を圧倒する歌唱パフォーマンスで、抜群の存在感を示していた。
道徳観の欠如した壊れた機械のような、銀粉蝶によるシーリアのエキセントリックな人物造詣も面白かった。
ポリー役の篠原ともえは、劇中で自分の居場所をうまく見つけられていない。どこか窮屈そうで、その持ち味が十分に生かされているようには思えなかった。
マックとビーチャムは、巧緻に長けたエゴイスティックな悪党でありながら、人を強烈にひきつけるカリスマ性、愛嬌を持っていなくてはならない難しい役どころである。吉田栄作は決して悪くはないのだけど、やはり二枚目のイメージが僕には強くて、マックのあくの強さとエネルギーに満ちたイメージとは結びつかなかった。