閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

nostalgia:〈彼〉と旅をする20世紀三部作 #1

維新派
http://www.ishinha.com/nostalgia/SP/index.htm

  • 作・演出:松本雄吉
  • 音楽:内橋和久
  • 美術:黒田 武志(sandascape)
  • 映像製作:高岡 茂(スタジオデルタ)
  • 撮影:岩爪 勝(グレアプロジェクト)
  • 照明:三浦 あさ子
  • 音響:松村 和幸
  • 舞台監督:大田 和司
  • SE:佐藤 武紀
  • 衣装:中嶋 祐一・維新派
  • ヘアデザイン:新宮 延子(マーブル図鑑)
  • メイク:名村 ミサ・松村 妙子
  • 出演:藤木太郎、大石美子、岩村吉純、田口裕子、木戸洋志、尾立亜実
  • 劇場:与野 彩の国さいたま芸術劇場大ホール
  • 上演時間:2時間
  • 評価:☆☆☆☆★
                                                                                  • -

大規模な野外劇公演で知られる維新派の公演をはじめて生で見た。NHK教育の『芸術劇場』で放映された映像は見たことがあったが、当然生の舞台のほうが圧倒的に面白い。
13のシーンからなる集団舞踊による幻想劇。30名ほどの役者が舞台に上がる。衣装は場面場面で何回か替わるものの、基本的にはある種のユニフォームのように役者は同じ装いをし、顔は白く塗られ、没個性性が強調されている。役者はドミノ倒しのドミノのように集団的、連鎖的に動いていく。ゼンマイ仕掛けの人形のような動きで、歩く、走るなどの日常的動作が舞踊的にデフォルメされていく様子が面白い。またその集団性は、極度に洗煉されたマスゲームをも連想させるものだった。
最初のほうは舞台美術は舞台奥一面を覆う巨大なスクリーンだけである。スクリーンにはまず日が沈んだ後の時間帯の小学校の校庭が鵜映し出される。校庭の向こう側には海が見える。この校庭の風景は作品の軸の一つである。七分丈のズボンをはき、白いシャツを着、帽子をかぶった白塗りの子供たちが、休み時間の遊びあるいは体育の授業中のスポーツの動きや声を象徴的なかたちで抽出し、集団的な舞踊という形で提示する。役者同士の台詞、対話はほとんどない。声はたびたび一人で、あるいは複数の役者のユニゾンで音楽的に発せられるが、それらはほとんど意味を失った音声的断片である。スクリーンは学校の校庭以外にも様々な風景やオブジェを映し出す。舞台の役者の動きとスクリーン上に投影される海岸で撮影された役者の動きをシンクロさせるなど、映像の使い方は創意に満ちていた。
音楽もほぼなりっぱなしである。ミニマル風、あるいはバロック音楽パッサカリアという形式を想起させるような、短いフレーズの反復に即興的に自由な旋律を乗せるような感じのとてもクールでかっこいい音楽だった。
学校の校庭のほか、物語と歴史を見守る証人の役を担うかのように時折舞台上に現れゆらゆらとゆったり動き回る巨人、ブラジルの日系移民の世界というイメージが、作品の核を形作る。ブラジルの場面ではサトウキビ畑と畑を管理する地主の屋内が巨大なセットによって再現される。
シュールリアリズムの絵画を見ているような、とにかく強力なイメージの喚起力を持つ美しい舞台だった。