http://www.tpo.or.jp/japanese/concert/0711.html
- 会場:神谷町 サントリーホール
- 演奏曲目:
ほとんど崇拝しているといってもいいチョン・ミョンフン指揮によるフォーレの名曲《レクイエム》の演奏があるということで大枚(といっても9000円の席だが)をはたいてチケットを購入した。《レクイエム》は確かに何度聞いても心の奥にひたひたと液体がしみいるような感覚を味わうことのできる名曲であることはまちがいないが、ミョンフン=東フィルの組み合わせの演奏は期待していたほど面白いものではなかった。第6曲の《Libera me》の《Dies illa, dies irae》の部分で劇的な盛り上がりはあるものの、総じて端正な静謐さのなかで溶けいるような旋律の美しさを味わうフォーレの《レクイエム》は、起伏に富んだドラマティックな表現で聴かせるミョンフンのスタイルとはうまくかみ合わないのかもしれない。音楽の美しさはもちろん十分に堪能したのだけれど、フォーレの優雅な音世界に浸るといった感覚は僕は味わうことができなかった。
今回のプログラムで一番面白かったのは、二番目のブルッフの《ヴァイオリン協奏曲第一番》だった。19世紀後半ドイツ音楽界では保守的な古典主義回帰の音楽を作り手だったブルッフの作品の中ではこの曲のみが現代でもしばしば演奏機会があるという。ソリストの韓国人ヴァイオリニスト、ハン・ソージンは86年生まれというからまだ21歳だ。非常に滑らかでまろやかな美しい音色のヴァイオリンが印象的だった。快速なパッセージも、ぎすぎすとテクニックをひけらかす感じは全くなく、柔らかみのある、実に伸びやかで陽性の音色を響かせる。とても心地よい演奏だった。
交響詩《ドン・ファン》は映画音楽、僕にはとくにディズニーアニメの音楽を思わせる変化に富んだ物語性を感じさせる曲であった。ミョンフンのドラマ作りの工夫がちりばめられていた演奏だったけれど、僕には曲のおもしろみがあまりわからなかった。