閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

カルメン

http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000028.html

【作 曲】ジョルジュ・ビゼー
【台 本】アンリ・メイヤック/リュドヴィク・アレヴィ
【原 作】プロスペル・メリメ
【指 揮】ジャック・デラコート
【演 出】鵜山 仁
【美 術】島 次郎
【衣 裳】緒方 規矩子
【照 明】沢田 祐二
【振 付】石井 潤
【舞台監督】菅原 多敢弘
【芸術監督】若杉 弘

キャスト
カルメン】マリア・ホセ・モンティエル
【ドン・ホセ】ゾラン・トドロヴィッチ
【エスカミーリョ】アレキサンダー・ヴィノグラードフ
【ミカエラ】大村 博美

【合唱指揮】三澤 洋史
【合 唱】新国立劇場合唱団
【児童合唱】杉並児童合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

  • 劇場:初台 新国立劇場オペラ劇場
  • 上演時間:3時間40分(休憩25分*2回)
  • 評価:☆☆☆☆

鵜山仁演出なので演劇的にも面白い舞台を期待してチケットを購入した。普段は新国立劇場オペラ劇場公演では一番安い四階席なのだが、今日はちょっと奮発して二階サイド席を購入する。二階席から劇場内部を見ると、劇場は円筒を斜めに倒したような空間になっていることがよくわかる。そしていつも座っている四階席が舞台から見て遠くて高い位置にあること! あれでは井戸の底を覗き込むようなものだ。音楽が聴ければ満足というのならともかく、演劇的にオペラを見ようとするならかなり厳しい距離だ。あそこに座ってオペラを見ているといつもなんだか寂しい気分になる理由がよくわかった。芝居ととしてオペラを楽しむのであれば、やはり今回購入した二階席ぐらいの距離でないとしんどい。
オペラ作品の中でも定番中の定番であり、上演機会も多い『カルメン』だが、僕が舞台でこの作品を観るのはこれがはじめてだった。CDやDVD映像を通して繰り返し耳にしていた名曲の数々が、歌手の身体を通して立ち上がってくる場に立ち会うことにまず大いに興奮を覚える。主要な役柄の歌手のパフォーマンスに失望させられることはなかった。演出も奇を衒わないオーソドックスな舞台作りだったと思うが、絵画的な美術と照明の中での群衆の動かし方がとても巧みで、ダイナミックな魅力に満ちた密度の高い舞台空間を提示していた。特にセビリアの街中の市場のような場所で展開する第一幕には、その見事な絵作りとソリストのパフォーマンスにすっかり魅了されてしまう。美術、照明、衣装と演出の共同作業がしっかりかみ合った素晴らしいスペクタクルとなっていた。
第二幕、第三幕の前半は一幕とは対照的な夜の場面が続く。闘牛士エスカミーリョが登場する酒場の場のあとは、暗闇の神秘的な雰囲気の中、静かで抑制された場の中で、名曲が流れる。この抑制は最後の場、カルメン殺害で爆発する。この殺害の場は個人的には目のくらむような白熱光の中で情熱的に演じられてほしかったのだが、今回の演出では光と陰のコントラストを舞台上で共存させ、その対照を交錯させるような形で進行させていた。
原作の提示する流れに逆らわず、自然なかたちで展開をふくらませたオーソドックスな演出だと思った。
オケについては若干不満を感じる。普段好んで聞いている演奏と比べると、演奏になんともめりはりがなく、勢いが乏しい。特に序曲のインパクトの弱さにはがっかりしてしまった。