閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

犬ストーン version Dr.エクアドル

Dr. エクアドル×ロリータ男爵
http://www.lolidan.com/

  • 作:田辺茂範
  • 演出:Dr.エクアドルゴキブリコンビナート
  • 照明:萩原賢一郎
  • 音響:中村嘉宏,齋藤瑠美子
  • 衣裳:田辺雪枝
  • 小道具:清水克晋
  • 出演:大佐藤祟,斉藤マリ,役者松尾マリヲ,加瀬澤拓未,丹野晶子,草野イニ,斉藤摩耶,福屋吉史,Dr.エクアドル,スピロ平太,オマンサタバサ,ワッシャー木村,本間幸子,佐々木幸子
  • 劇場:赤羽橋 麻布die pratze
  • 上演時間:2時間半
  • 評価:☆☆☆☆
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脚本,演出ともに極めて独創的,というか特異.会場に入ると中心に直径5メートルほどの円形のリング上の舞台が目に入る.その舞台から鉄筋が半球状の檻のごとく組まれている.檻といっても鉄筋の間隔は人が通られるくらいの広さがあり,その組み方もかなり雑然としている.
その半球の檻の周りが客席になっている.基本的に桟敷席.入場の際,受付で汚れ防止用の新聞紙が手渡される.
開演前にはちらしの注意書きにあるように役者松尾マリオが「王様がなんとかかんとか」というナンセンス歌曲を唄いながらうろうろと動き回っている.
脚本の着想の独創性は驚異的に素晴らしい.犬になりたくてしかたない人間の話なのだ.犬へと変身を遂げるべく,四つ集めて犬場に持っていけば犬になれるという犬ストーンの探索が物語の軸である.この荒唐無稽なファンタジーをミュージカル仕立でやろうと発想には本当に感心してしまった.音楽やふりもかなりかっこいい本格的なものだ.観客は動物園のサルを眺めるかのごとく,「檻」の外側から円形舞台の中をのぞき込む.観客席のうしろ側は壁に沿ってらせんじょうになっていて,そこもまた演技空間となる.牛乳が後ろの方からびゅんびゅん飛んでくるのがとてもスリリングで面白かった.本物の子犬も二匹登場する.狂騒的,阿鼻叫喚の舞台の有り様に,本物の犬はすっかり怯えてしまっているようだった.
最初の30分は独創的かつ悪趣味なギミックの数々にひきこまれ,今年見た演劇作品の中でベストワンになるかも,と思ったが,中盤以降,展開がだらだらと間延びしてしまう.「犬になることを目指す人間」というアイディアだけで二時間半緊張感を維持するのは無理だったようだ.しかしこのだらだらした感じもまた「味」であるとも言える.エロ・グロ・ナンセンスの要素を露悪的に強調するセンスの素晴らしさ,これに応える役者の熱演ぶりは見事だった.