閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ロメオとジュリエット Roméo et Juliette

MET ライブビューイング

http://www.shochiku.co.jp/met/romeo/index.html

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ニューヨークのメトロポリタン歌劇場でのオペラ公演のライブ映像を映画館などで上演する試み.字幕がつくほか,幕間の時間の出演者インタビュー,舞台裏の出演者やスタッフの様子などの映像も加わる.ライブ映像はHD映像(Hard Disk 映像?)とかいう方式で上映されていて極めて鮮明である.6チャンネル音響で音もよく聞こえる.昨年から始まった試みで,昨年一月には私は新橋演舞場でタン・ドゥンの新作オペラ《始皇帝》を観て,この上映方式には肯定的な感想を持った.映像での配信ゆえ,ライブ独特の高揚感はないのだけれど,新感線の舞台作品の映画館上映である「ゲキシネ」,松竹の「シネマ歌舞伎」同様,舞台作品の楽しみ方の新たな魅力的な選択肢として定着して欲しい.映像演劇では客席からはまず見ることのできないカメラアングルや演技者のアップを楽しむことができる.映像は驚くほど鮮明だし,カメラアングルなどの映像版独自の演出の工夫も今後さらに進んでいくはずだ.
また生舞台に較べてはるかに安価にスペクタクルを楽しむことができるのは,オペラの海外公演などの場合はとりわけありがたい.生の醍醐味は当然ないのだけど,新国立劇場などの最安席と較べると,最新映像音声技術を使ったライブ映像のほうがはるかに舞台を楽しむことができるようにさえ私には思える.

昨年はMETのライブビューイングでは六公演が上映されたが,日程の問題などで結局,《始皇帝》だけしか観ることができなかった.2008年は8作品の上演が予定され,上映会場数も昨年より増えている.値段は3500円(ワーグナートリスタンとイゾルデ》のみ4000円)である.今年はできれば全公演を見に行きたいと思っている.

2008年の第一弾はフランス一九世紀作曲家のグノーの《ロメオとジュリエット》だった.グノーのオペラはこれまで《ファウスト》しか知らなかった.《ファウスト》の舞台は何年か前パリで一度観ている.グノー版《ロメオ》ではシェイクスピアの原作を比較的忠実に再現されている.初演は1867年.グノーは12のオペラ作品を残しているが,《ファウスト》を覗けば他の作品の演奏機会はそれほど多くはない.モリエールの《いやいやながら医者にされ》をオペラ・コミックにした作品も残しているが,どんなものか機会があれば聞いて(できれば観て)みたいのだが.

歌舞伎座では三階席が二千円,一,二階席が四千円だった.スクリーン上映なので三階でも遠くて見えにくいということはないのだけど,スクリーン上部に若干見切れが生じる.三階席では客は一,二列目のみだった.一階席に大分空き席があったので休憩後は一階席に移動する.

五幕構成だが第三幕と第四幕が二場からなるので,実際には七幕構成.冒頭は合唱による短いプロローグがあって,死んでしまったロメオとジュリエットを囲む群衆が合唱で物語の概要を歌う.このプロローグはかなりかっこよかった.以下,ほぼ原作通りに進行するが,歌が入る分だけ,各場の進行が停滞しているような印象を持つ.第一幕のキャピュレット家の仮面舞踏会で二人が出会う場面はとてもよかったのだが,その後はアリアとデュエットのみで成立する場が続き,単調さを感じる.
休憩後の第四幕第1場はジュリエットの部屋で二人が結ばれる場面である.宙づりになったベッドの上で愛し合いながらアリアとデュエットを歌うというアイディアが今回の演出で一番の創意だったようだ.愛し合う場面もかなりリアルに執拗に表現され,濃厚なエロティシズムを印象づける.
ただ全般的には進行の遅さを感じ,意識が飛びそうになったことが何回かあった.ジュリエット役のソプラノ,アンナ・ネトレプコの歌声の力強さは圧巻で,その超人的技芸は堪能したけれど,芝居としての醍醐味はいま一つだった.

次回はフンパーディンクの《ヘンゼルとグレーテル》.作曲者も作品も知らないが,,演出がリチャード・ジョーンズだ.リチャード・ジョーンズの演出作品はパリのオペラ座でのマルティヌの《ジュリエット》を観ている.今まで僕が見たオペラの演出のなかでも五本の指に入る独創的で演劇的な舞台だった.必見.