閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

霊感少女ヒドミ

小指値 REMIX
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  • 原作:岩井秀人(ハイバイ)
  • 作:北川陽子
  • 演出:篠田千明
  • 舞台監督:佐藤恵
  • 美術:山本ゆい
  • 照明:伊藤啓太
  • 音響:星野大輔
  • 衣裳:藤谷香子
  • 企画:山北健司、篠田千明
  • 映像:佐々木文美(アニメーション)、中林舞、野上絹代
  • 振付:野上絹代
  • 出演:初音英莉子、三浦俊輔、NAGY OLGA、大道寺梨乃、中林舞、野上絹代、山本皓司
  • 劇場:駒場 こまばアゴラ劇場
  • 上演時間:80分
  • 満足度:☆☆☆☆★
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劇団初見。戯曲はハイバイによって初演された作品だそうだが、作品も今回が初見だった。私が見た日のマチネ公演では、ハイバイ版の舞台録画が本編のあと上映された。ハイバイ版は40分弱の長さだったので、今回の舞台は二倍近く長くなっていることになる(映像で見たハイバイ版がダイジェスト版でない限り)。ハイバイによる初演と較べると、今回の大幅な変更が加えられている。登場人物や設定、台詞に同一の部分はあるにしても、小指値REMIX版は初演版とは異なる独立した作品とみなしてもよい感じである。

「ヒドミ」というタイトルから見る前は、アゴラ劇場の冬のサミットのパンフレットに掲載されている写真の人物がヒドミだと思いこんでいた。実際にはこの写真の人物は男性であったのだけれど…… 「ヒドミ」という名前からして、不細工でコンプレックスの塊のような女性が主人公の物語だと何となく想像していたのだ。ちょっと前に見た映画「ジャーマン+雨」のイメージが影響していたのかもしれない。

ヒドミは白人女性を含む五人の女性で演じられる一人の若い女性の名前である。現代の都市の片隅に住むある種の女性の集合体のような女性である。フリーター生活を続ける若い女性、自由であるけれども地に足がつかない生活の頼りなさゆえに、深い孤独と不安を抱え込んでいる。
彼女は一人の幽霊が見える。自分の住むマンションの一階にあるコンビニに夜に行くと、その目の前の道で交通事故で死んだ若い男の幽霊が彼女に話しかけるのだ。彼女に惚れているらしい幽霊は彼女に話しかけるのだが、彼女はうざったいだけ。
そうした日常をヒドミはブログに時折記録していた。
年末のある日、渋谷をぶらついているところをナンパされる。強引な男の誘惑に何となく流されていくヒドミ。一度肉体関係を持つとヒドミは一気に男との恋愛に依存していく。

ヒドミのはかなく短い恋の誕生から終演を80分弱でテンポよく描く。ポップな感覚の衣裳、音楽、美術、ダンスはとってもお洒落なビジュアル効果を作り出している。豊富に取り入れれた小さなギャグは物語展開をほどよくかき乱し、アクセントとなっている。極めて洗練された新感覚のコントを見ているような感じであったが、都会で標なく漂う女性と男(幽霊)が抱える孤独、心細さ、切なさを示す物語もきっちりと表現されていて、最後はちょっとじんときてしまった。

ただあまりにもおしゃれ過ぎるところが気に入らない。ヒドミ役の一人、初音映莉子の驚異的な愛らしさと存在感(コケットな顔立ちだけでなく、細身の体からスティックのように伸びた手足も印象的だった)はものすごく見ていて嬉しかったけれども、戦略的なずるさも感じた。何だかよくわからないけれど反則感に満ちた可憐さを彼女は発していた。