閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ベガーズ・オペラ Beggar's Opera

  • 原作:ジョン・ゲイ
  • 音楽:イローナ・セカッチ
  • 脚色・演出:ジョン・ケアード
  • 翻訳;吉田美枝
  • 訳詩:松田直行
  • 装置:島川とおる
  • 音楽監督:山口秀也
  • 照明:中川隆一
  • 衣裳:半田悦子
  • 振付:広崎うらん
  • 音響:本間俊哉
  • 出演:前田聖陽、島田歌穂、笹本玲奈、森公美子、近藤洋介、高嶋政宏橋本さとし村井国夫
  • 劇場:日比谷 日生劇場
  • 上演時間:三時間四十分(休憩20分、10分)
  • 満足度:☆☆☆☆
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もともと劇中劇の構造を持つ芝居で、最初の口上で乞食劇団の「演出家」によってこれから始まる芝居の概要、その特徴が観客に向って説明される。劇中劇の外枠にあたるこの人物は作品の最後にも登場し、劇中の物語に外側から介入する。主人公の処刑という悲劇的結末がいったん提示された後で、それは「オペラ」に相応しくないと横やりを入れ、劇時間を強引に巻き戻し、恩赦によって主人公は釈放され恋人と結ばれるというハッピーエンドに変更してしまうのだ。
演出ではさらに現実の観客の存在を、この二重構造に外側に配置し、積極的に劇構造の中に取り込んで行く。ステージサイドシートでは、幸運な観客はステージ上ですぐ真横から劇の進行を眺めることができるだけでなく、ときに舞台上の人物によって劇世界の中へと呼び込まれる。二回ある幕間の時間には舞台上の乞食は二階席にまで入り込んで、観客にちょっかいを出す。観客からお菓子などの大量の差し入れを受け取っている乞食もいた。

舞台劇とその外枠、そして観客という三つの次元の行き来がたいへんスマートな形で構築されていた。歌のうまい役者がそろっていたにもかかわらず歌の場面には若干の退屈を感じてしまうところもあったが、観客参加型の芝居としてはとてもよくできている。とりわけエンディングの演出の華やかさと楽しさは破格だ。
できることならぜひステードサイドシートで味わってみたい芝居だった。

ブレヒトの『三文オペラ』はこの『ベガーズ・オペラ』の翻案だが、作品内の自己言及性の強調、歌と台詞の処理についてのアイディアなど『三文オペラ』の独創による部分だと思っていた部分のほとんどが実は18世紀初頭の作品である『ベガーズ・オペラ』で既に提示されていたことに驚く。叙情的で崇高なイタリア的オペラ全盛の時代にこのような前衛精神に満ちた実験作が上演され、成功を治めていたとは。まったく不思議な内容の芝居だと思う。