閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ブレス

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ブレス(2007)BREATH

死刑囚の男を突然愛する女の話、となれば先日見たばかりの万田邦敏監督の『接吻』を想起せずにはおられない。万田監督の『接吻』にも大いに満足したのだけれど、『接吻』とはまた異なる雰囲気を持つこの作品も同じくらい大きな満足を得ることができた作品だった。万田監督がアフォリズム的なメッセージを含む寓話であるのに対し、ギドクの作品は詩的なファンタジーであるように感じられる。
エキセントリックではあるが、それゆえに鋭利な純粋さを持つ愛の形を、キム・ギドクならではのしっとりした叙情の中で描きだす。
裕福でありながら砂をかむような日常の中で、「生きている」という実感を喪失した女にとって、死刑囚の男との濃密な面会は、恋愛というよりは、激しい生の本能的衝動であるように思えた。生は、確実な死を目前に控える男と強烈なコントラストをなすことで、生き生きと浮かび上がる
女は死刑囚の男によって、生のリアリティをもがきながら掴み取ろうとしているかのようであった。しかもその方法の唖然とするような不器用な痛々しさには、見ていて胸が締め付けられる思いがした。これこそキム・ギドク映画の醍醐味ではあるが。
この男女の魂の交流を軸に、刑務所の房内での同性愛、女の家族の愛、などいくつかの感情のありかたが、水の波紋のように重なり合い、物語にニュアンスを付け加える。

恐るべきワンパターンで同一主題の変奏曲といった趣の映画を作り続けるキム・ギドクの執念のすさまじさにはいつもながら圧倒される。
韓国人俳優はやっぱりいいなぁ。日本人俳優にもうまい俳優は何人もいるけれど、韓国俳優の演技はソリッドに中身まできっちり詰まっているような質感を感じる。