閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ドニゼッティ《連隊の娘》

METライブビューイング2007-2008
http://www.shochiku.co.jp/met/fille/index.html

  • [指揮]マルコ・アルミリアート
  • [演出]ローレン・ペリー
  • [出演]
    • マリー:ナタリー・デセイ
    • ベルケンフィールド侯爵夫人:フェリシティ・パルマー
    • トニオ:ファン・ディエゴ・フローレス
    • シュルピス : アレッサンドロ・コルベリ
    • クラッケントルプ侯爵夫人:マリアン・セルデス
  • 上映時間:約3時間10分(休憩1回)
  • MET上演:2008年4月26日(日本時間27日)
  • 劇場:都立大学 めぐろパーシモンホール
  • 評価:☆☆☆☆☆

演出のロラン・ペリとソプラノのナタリー・デセがコンビを組んだ、リヨン歌劇場でのオッフェンバック《地獄のオルフェ(天国と地獄》をDVDを何ヶ月か前に見て、その破格の楽しさにすっかり魅了されてしまった。
METライブビューイングの今年度のプログラムでこの組み合わせを発見し、すぐに見に行くことを決めた演目である。もっともドニゼッティのオペラは、見るのも聞くのもこれが初めてだった。

期待に違わぬ、驚異的に楽しい舞台だった。体はものすごく疲れていたし、雨にもぬれたけれど、見に行ってよかった。METの今年のシーズンを締めくくるにふさわしい陽気で祝祭的な作品だった。
テノールのフアン・ディエゴ・フローレスの高音の出てくるパッセージを軽やかに駆け抜ける超絶技巧も最高に気持ちのよいものだったが、プリマドンナのナタリ・デセのエキセントリックでキュートな爆発力抜群の魅力に目を奪われる。もちろんその歌唱技術に耳も奪われる。
ナタリのめりはりのあるきびきびとした動きの美しさは、表情の豊かさは、通常のオペラ歌手の次元をはるかに凌駕するものだ。もちろんその演技は、すばらしい歌唱力と緊密に結びついていて、数千人の観客の注意をひきつけるあのパフォーマンスには役者と声楽家の機能の奇跡的な融合があるように思える。
彼女の個性的な魅力を十全に引き出すペリーの創意に満ちた演出手腕もすばらしい。台詞の部分にかなり手を入れて、一編の喜劇作品としての完成度も高めている。物語の舞台となるスイスの山岳地帯は、巨大なスイスの地図を立体的に折り曲げて組み合わせることで表現していた。主要な演者の演技への演出もとても細かく丁寧なのだが、群集の集団的動きにもダンス的な律動性を付与することで、変化に富んだ舞台を作り出していた。役者の立ち位置および「決め」の静止ポーズの効果もしっかりと計算されていて、ロングからの舞台映像は歌舞伎舞台が作り出す「絵」のような美しさがあった。