閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

若き俳優への手紙

  • 作・演出:オリヴィエ・ピィ
  • 出演:パリ・オデオン座
  • 劇場:静岡 舞台芸術公園 野外劇場「有度」
  • 上演時間:1時間5分
  • 評価:☆☆☆★
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静岡芸術劇場まで無料バスで往復。無料はとてもありがたかったのだけど、往復6時間のバスは思っていたより疲れた。
『イリュージョン・コミック』は副題から言っても、17世紀のコルネイユの同タイトル作品を上演するものだと信じ込んでいた。古典が一本、現代劇の新作が一本という、フランスの新鋭で国立オデオン劇場の芸術監督となったオリヴィエ・ピィの持ち味を知るには好都合のバランスのとれた組み合わせだ、と思ったのだ。
コルネイユの『イリュージョン・コミック』はもともと劇中劇構造を持った喜劇作品であり、そのメタ演劇性への関心から最近フランスでも上演が多いらしい。最初のうちはコルネイユの作品が上演されるのだと信じ込んでいたために、ピィがオリジナルの劇中劇構造の外側にさらにもう一つ外枠を設定し、その外枠の部分が演じられていると思ってみていた。20分ほどたって、ようやく自分が勘違いしていたことに気づく。『イリュージョン・コミック』もピィ自身の作品だったのだ。もちろんコルネイユの同タイトルの作品が持つ劇中劇構造やコルネイユと同じ17世紀の作家、モリエールのメタ演劇芝居、役者がそれぞれ自分自身を演じることで、同時代のほかの作家の作品を批評したり、演劇論を提示したりする作品である『ヴェルサイユ即興劇』という傑作の世界も連想させる。
「演劇は何か?」という問いかけへに対する100の定義を劇の最後で連呼するこの作品は、現代演劇にもなお尾古典主義演劇美学がのしかかり、それと格闘せねばならない、フランスの演劇伝統への自虐的な風刺に満ちた作品だった。
しかしこうした演劇そのものを問うメタ演劇芝居は今では目新しいものではなくなってしまっている。フランスの演劇伝統を考慮すると、ピィのメタ演劇的姿勢のなかのもがきぶり、諧謔のありさまには面白いところもあるのだけれど、斬新さは感じなかった。フランス国立劇場オデオン座所属の役者の表現能力の高さはすばらしかったけれど、訓練された役者の能力やフランス演劇的伝統の底力をもっとストレートな形で見せてくれるような芝居(例えばクローデル作品など)を見てみたかった。
静岡の舞台芸術公演の野外劇場での公演は、『イリュージョン・コミック』の縮小版といった感じだった。舞台上には二人ないし三人の役者しか登場せず、舞台美術も簡素。もともとはフランスの演劇学校の学生向けに書かれた脚本だったという。やはり演劇とは何か、という問いかけへのピィ流の屈折した回答を示すメタ演劇。

昼と夜の公演で、同じテーマの裏表を見せたという感じだった。決して悪い作品ではないが、現代フランスを代表する劇場の公演であることを思うと、大いに物足りない。