- 原作:モーリス・メーテルリンク
- 演出:久世直之
- 美術監修:土屋多加史
- 衣装:竹内陽子
- 照明:塩弓喜子
- 音響:佛木雅彦
- 絵画:荒川靖彦 古川あいか 木村美紗子 小林裕子 寺園大誠 渡部論誓
- 出演:藤間叟之助 平垣温人 星貴晴 高秉旭
- 劇場:こまばアゴラ劇場
- 上演時間:1時間半
- 評価:☆☆☆★
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劇団初見。あまり上演機会のないメーテルリンクの初期戯曲をとりあげるとは目の付け所がいいと思う。
メーテルリンクの作品といえば、『青い鳥』とドビュッシーがオペラ化した『ペレアスとメリザンド』ぐらいしか知らないのだけれど。『青い鳥』をしばらくまえに読み返す機会があったときに思いのほか面白くて、それがきっかけでこの作家のほかの戯曲になんとなく関心を持った。
今回の上演を前に、『タンタジルの死』を含む1890年代、メーテルリンクの創作活動初期に書かれた四編の一幕劇を翻訳で読んでみた(倉智恒夫訳、「室内」、「群盲」、「タンタジルの死」、「忍び入る者」、『室内:世紀末戯曲集』(国書刊行会、1984年)。
室内―世紀末劇集 (1984年) (フランス世紀末文学叢書〈12〉)
- 作者: 倉智恒夫,モーリス・メーテルランク
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 1984/11
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いずれの作品も、死を主題としており、死の暴力的な訪問におびえ、ある種の諦念の中でその宿命に抗して絶望的にもがこうとする人間のありさまを、静謐に、厳粛な筆致で描く傑作だった。メーテルリンクはこのスタイルの劇を「静的な演劇」theatre statiqueと呼んだという。これらの劇では欲望や情念のはげしいせめぎあいによるドラマが展開されるわけではない。「死」の不条理性を繊細な観察に基づいて再現し、日常のなかに埋没した悲劇のありようを描いた作品である。しかしその世界はきわめて象徴的で幻想性に富む。メーテルリンクは象徴派の詩人と目され、その作品は象徴派の画家、ルドンやモローの作品世界と比せられることが多いようだが、僕が今回読んだ四作品の静謐な世界観は僕にはむしろ漆黒の中からぼんやりと対象を浮き上がらせるメゾチントの技法による銅版画、あるいは15世紀のフランドルの画家、メムリンクの作品を連想させるものだった。さらに言うと、ベルギーのシュルリアリスト画家のデルボーの作品。メーテルリンクの作品はこのように幻想的で神秘的な具象絵画のイメージを強く喚起させる。
この手のイメージの喚起力が強いテクストは、読書の想像力のなかでいろいろ思い描く喜びが大きい。その舞台化は想像上のイメージ化が容易なだけに難しいところがあるのではないか、と見る前には思った。
鵺の会の狙いはとても興味深いものだと思った。「額縁ショー」から想を得た「額縁劇」という発想はユニークだし、奥行きのまったくない窮屈な舞台で、不器用に役者を動かすという仕掛け(オルゴール人形のような動きだった)、抑揚を欠いた単調な発声は、もともとマリオネット劇として構想されたらしいこの劇の、神話的・寓話的雰囲気を盛り上げる。くすんだ色で描かれた趣味のいい背景画の数々や薄暗い照明もアナクロニズムにアナクロニズムを重ねたような面白い効果をもたらしていた。サティのピアノ曲(テンポが極端に遅い)を中心として選曲のセンスもいい。
ほとんど「パロディ」的次元まで狙った仕掛けの数々は面白いとは思ったのだけれど、あの平面的動きと単調な抑揚の発声で一時間半、暗い舞台のなかで観客が緊張感を持続させるのは、見世物としてはやっぱり相当しんどいことだと思った。芝居のテンポを意図的に遅くしている。観客は単調さと付き合う覚悟がちょっと必要だ。
普段の僕なら20分ぐらいで眠りに落ちているところなのだけれど、今日はたまたま知り合いの先生(かなりえらくてこちらの頭が上がらないひと)が客席にいて、その隣に座っての観劇だったため、眠らないで見ることができた。眠くなりそうな芝居のときは、誰かと一緒に見に行けばいいんだ。
メーテルリンクの表記が一般的だがこの作家は、ほかにもマーテルランク、メーテルランク、マーテルリンクといくつかの表記をみかけることがある。ベルギー出身でフランス語で書く作家なのになんで、一般的なフランス語読みに近いメーテルランクじゃないんだろう、と思っていたのだけれど、この人はフランス語で作品を発表しているが、出身はベルギー北部のフラマン語(オランダ語)地域だった。フラマン語読みだとおそらくメーテルリンクが一番原音に近いのだろう。