閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

友達

http://setagaya-pt.jp/theater_info/2008/11/post_127.html

芝居を見る前に戯曲を読んだ。とても面白い戯曲だと思った。結婚間近の独身男性のアパートにある日突然、おじいちゃん、夫婦、三人姉妹に三人兄弟の9人家族が入り込んで居座るという不条理コメディである。筒井康隆の初期の短編の一群と雰囲気がよく似ているように思った。

銅色の鉄パイプで組まれた枠で表現されたアパートの美術がとてもかっこいい。押しかけてきた家族九人がずらっと舞台の奥に横一列に並ぶ場面の絵も印象的だった。洗練されたインスタレーション芸術を思わせるスペクタクルはとても洒落ている。

きっちりと構築された雰囲気のすきのない戯曲という印象を読んだときは思ったので、岡田利規がどうこの戯曲を扱うのか興味しんしんだった。役者もクセの強い個性派がそろっている。
結果は戯曲のイメージを忠実に、シャープでセンスのいいビジュアルのなかで、展開した素直な演出だった。若松武史麿赤児などの強烈な個性の役者の持ち味はそのまま生かしてたそつのない演出だったと思う。第一幕が一番よかった。役者の芸ののりをうまく生かした喜劇的な場面が第一幕ではバランスよく構成されていた。キャスティングは本当に豪華ですばらしい。若い女優陣も美人ばかりそろえている。京はC列で前から二番目だった。美人女優を間近で見ることができてとても満足だ。大学の後輩のともさと衣ちゃんがとりわけ輝きをはなっていた。
役者、とりわけ「家族」を演じる役者は観客のほうを向いて台詞をしゃべる。あたかも観客によびかけ、同意を求めているかのように。観客は「家族」の共犯者にされてしまうのだ。

第二幕から停滞感が強くなる。戯曲を読んだときは、文庫版で100ページほどの長さだが、印象としては短編・中編戯曲という感じがしたので、2 時間20分の上演時間と聞いたときは意外な感じがした。実際の舞台をみると、テンポは全体にかなり落としているように感じられた。あえてやっていたのかもしれないが、展開のリズムがぎくしゃくした感じである。中盤以降何度か落ちそうになる。芝居の体感時間がとても長く感じられた。


最後のほうで「さからいさえしなければ、私たちなんか、ただの世間にしかすぎなかったのに」という次女の台詞がある。9人の家族が表象するこの「世間」は、相当うざったく、圧迫で、押し付けがましく親切でもあり、従順に受け入れればよき友ともなりえたかもしれないが、拒否するととたんに攻撃的に侵蝕してくる。舞台をみてふと思ったことだが、「友達」のこの家族は、 50-70年代にかけて活発に活動し、都市に住む地方出身の独身層を中心に勢力を拡大していた新宗教団体をどこか連想させるところがある。作品の初演は67年だったように思う。