閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

アダムス《ドクター・アトミック》

METライブビューイング
http://www.shochiku.co.jp/met/index.html#next
John Adams : Doctor Atomic

  • 作曲:ジョン・アダムス
  • 台本:ピーター・セラーズ
  • 初演:2005年サンフランシスコ歌劇場;2008年MET
  • 指揮:アラン・ギルバート
  • 演出:ペニー・ウールコック
  • 美術:ジュリアン・クローチ
  • 衣装:キャスリン・ズーバー
  • 振付:アンドリュー・ドーソン
  • 出演:ジェラルド・フィンリー、サーシャ・クック、メレディス・アーワディ、リチャード・ポール・フィンク
  • 映画館:新宿ピカデリー
  • 上演時間:3時間21分
  • 評価:☆☆☆★
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今年で三年目のMETライブビューイング。METのステージを安価に、しかも高画質、高音質で楽しむことができるのは本当にありがたい。今年度は10公演が日本の映画館で上映されるが、こちらの好奇心をそそる演目がならんでいる。
アダムスの《ドクター・アトミック》は2005年に初演されたオペラだそうだ。初演はMETではなく、サンフランシスコ歌劇場で、そのときの演出は、作品の脚本を担当しているピーター・セラーズだった。METでの今回の上演は、演出は新たにペニー・ウールコックが担当している。ウールコックはオペラの演出は今回がはじめてだが、アダムスのオペラ《クリングホファーの死》の映画版を監督した経験がある。

ドクター・アトミック》の主人公は、第二次世界大戦中の原子爆弾開発計画で中心的な役割をになったロバート・オッペンハイマーである。1945年7月に行われた世界最初の原子爆弾の実験までの数日間の不安と焦燥、そして熱狂がオッペンハイマーを中心に描かれる。
原子爆弾が現実となった瞬間に訪れた深遠な虚無感が作品のエンディングとなる。取り返しのつかない一歩を人類が踏み出してしまった瞬間である。

テクストは当時の公的記録、研究者たちの語録、日記、そして文学愛好者でもあったオッペンハイマーが愛したというジョン・ダンなどの詩を、再構成したもの。

いかにも面白そうな題材ではあったが、期待したほど楽しむことはできなかった。主役を演じたジェラルド・フィンリーの雰囲気はとてもよかったし、美術はとてもかっこよかったのだけれど、終始暗めの照明と、反復無しにだらだらと続くお経のような音楽で、前半は半分ほど眠ってしまう。新宿ピカデリーの椅子がまた快適だし。
オペラなので中心となる歌手にアリアを配置するのだけれど、モノローグ調のアリアはドラマの推進力を妨害している。オッペンハイマー夫人など女役も物語上は余分であったように思う。女声が聞こえないのはオペラとしては問題があるのかもしれないけれど。
あまりつながりのよくないパーツをつなぎ合わせた陰鬱で生真面目なレビューのように僕は感じた。