閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

人情噺 双蝶々雪の子別れ

前進座
http://www.zenshinza.com/index2.htm

  • 原作:三遊亭円朝
  • 脚本:林家正雀
  • 改訂・演出:中橋耕史
  • 装置:高木康夫
  • 照明:寺田義雄
  • 音楽:杵屋佐之忠
  • 出演:林家正雀(上の巻);藤川矢之輔、河原崎國太郎、嵐広也、中嶋宏幸
  • 劇場:吉祥寺 前進座劇場
  • 上演時間:2時間40分(休憩25分)
  • 評価:☆☆☆★
                                                              • -

2009年の初芝居は前進座の新作『双蝶々雪の子別れ』。
三遊亭円朝の人情噺が原作だが、この作品の歌舞伎化は今回がはじめてだという。
題名は歌舞伎でよく上演される『双蝶々曲輪日記』のもじりで、この作品にも長吉、長兵衛という「長」のつく人物が登場する。三部構成で、主人公の長吉の子供時代のエピソードが語られる「上の巻」は林家正雀の噺で上演し、丁稚奉公に出た長吉が番頭の策謀に逆上し、番頭を殺害するくだりの「中の巻」、世間から身を隠して生きてきた長吉が零落の状況にある父母を訪ねる「下の巻」を、芝居で演じるという趣向だった。この趣向は予想していたよりうまくはまっていたように思った。

継母のお光は長吉に親身にやさしく接するのだが、実母の死で根性がねじまがった長吉は継母に優しくされればされるほど、継母につらくあたる。これが過ぎたために、丁稚奉公に送られることになるのだけれど、噺で語られる長吉の子ども時代のエピソードが、下の巻の親子の再会の場面で生きるのだ。
世話狂言の雰囲気を持つ中の巻は、最初、若干単調、冗長に感じられた。しかし全体的には、落語の部分を含め、正味2時間20分ほどで、コンパクトにすっきりとした構成になっていた。よくできた翻案だと思う。立ち回りの場面の歌舞伎らしい演出もうまくはまっていたし。しかし逆にすっきりしすぎて、雑味が乏しいことがちょっと不満でもあったが。

長吉役の嵐広也がほぼ出ずっぱり。ハンサムですれたかんじのないこの役者に僕は好感を持っているのだけれど、今回は主役にも関わらずちょっと精彩を欠き、求心力に乏しいように感じた。

よく出来たお話で、芝居もまとまっていたけれど、何か一味、二味ほど足りない。濃厚さが乏しく、あっさりした仕上がり。満足度は中くらい。