閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

愛の渦

ポツドール vol.18
http://www.potudo-ru.com/index2.html

  • 脚本・演出:三浦大輔
  • 照明:伊藤孝(ART CORE)
  • 音響:中村嘉宏
  • 舞台美術:田中敏恵
  • 衣装:中西瑞美 
  • 出演:米村亮太朗 古澤裕介 井上幸太郎 富田恭史(jorro) 脇坂圭一郎 岩瀬亮 美館智範

    江本純子(毛皮族) 内田慈 遠藤留奈 佐々木幸子(野鳩) 山本裕子(青年団)

『愛の渦』は2005年4月の初演を見ている。僕が最初に見たポツドール作品だった。セックスというワンダーランドの殺伐としたありようを描いた傑作だと思う。三浦大輔はこの作品で岸田賞を受賞した。
実もふたもない散文的な欲望の世界がシニカルに描かれているが、そこで展開される性の饗宴に対する羨望、共感を観客は感じないわけにはいかない。内田慈、遠藤瑠奈という小劇場界を代表する美人女優がエロチックな役柄を演じるのだから。セックスにかかわる属性を肥大させて演じている内田慈が猛烈にかわいらしい。時間の進行とともに豹変する彼女の表情、口調が無性に扇情的だ。内田ファン必見だと思う。

とある乱交クラブの一夜の様子が描かれる。場面はおおむね時系列に並んでいるが、二つ目の場面だけ、いかにも内気で真面目そうな女子学生がパーティ開始前に面接を受ける場面のみ、時間が逆行する。
4組の男女がこの夜の乱交開始時のメンバーである。彼らはこの夜が初対面だった。最初のうちは互いにてれがあって、そのやりとりはぎごちない。とりとめのない話題を不器用に提示しながら、周りの反応を確認しつつ、おずおずとパートナーを探りあう。セックスで互いをさらけ出すうちに、だんだんと遠慮がなくなり、欲望むき出しの下品なやりとりが支配的になっていく。
このあたりの「モード」の切り替わりが丁寧に演出されており、台詞のずれかた、かみ合い具合などがとてもよく計算されている。それぞれの人物が持っている属性を最大限に利用して、互いに初対面だった彼らの間に微妙な権力関係が生じるさまの描き方も秀逸だ。

現代日本を舞台にした三浦版『夏の夜の夢』ともいえるかも知れない。朝が訪れ、日光が外から差し込むと、乱交の会場となった空間から淫靡な雰囲気が急速に弱まる。朝の白々とした光とともに、世界は急速に現実へと回帰していく。この朝の虚無感、虚脱感の表現がとてもすばらしい。享楽的、刹那的な欲望の宴の廃虚から、皮肉な味わいの詩情が湧き上がる。