閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

から騒ぎ

劇団シェイクスピア・シアター
http://www2.odn.ne.jp/shkspr-thr/

  • 原作:ウイリアムシェイクスピア
  • 翻訳:小田島雄志
  • 演出:出口典雄
  • 照明:尾村美明・秋草清美
  • 衣裳:上地洋子
  • 音楽:福島一幸
  • 音響:実吉英一
  • 出演:平澤智之・高山健太・三田和慶・安田龍司・小野秀幸大澤俊哉;住川佳寿子・木村美保・中島江美留・佐藤真琴・喜久山優子・小林あゆみ
  • 客演:松木良方・内田聡明・槇由紀子・松本洋平、押切英希・星和利・中川奈美・住田敏樹、伊野木英子・工藤美和子・灘辺清香・長橋佳奈・栗栖弘子・久野詠子
  • 上演時間:2時間20分(休憩10分)
  • 劇場:東池袋 あうるすぽっと
  • 評価:☆☆☆★
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何脚かのいすを除いては舞台美術が存在しない黒背景の素舞台でのシェイクスピア公演。劇場が俳優座からあうるすぽっとに移ったが、舞台空間は懸念していたほどがらんとした感じになってはいなかった。極端にスペクタクルを制限し、台詞をはっきり客席に届けることで劇世界を作りあげるシェイクスピア・シアターの舞台は、シェイクスピア演劇の原点に回帰する舞台であると言える。そもそもシェイクスピア劇は視覚より圧倒的に聴覚が優位に立つ声の演劇だった。豊かな言葉と役者の身体を主材料に、観客の想像力のなかに様々な世界を描き出す芝居だったはずである。しかし派手でわかりやすいスペクタクルに慣れた現代の観客には、シェイクスピアのことばだけを追って世界を描き出して行くことに慣れるのには少々時間が必要である。

シェイクスピア・シアターの役者たちのメカニックで無機的な発声と記号的な動作・反応は最初のうち、観客が劇世界へ入って行くのを拒むものであるかのように作用するかもしれない。シェイクスピア・シアターを何回も見ている僕もまた彼らの芝居は物語の立ち上がりがとても緩慢で、前半は冗長に感じられることが多い。シェイクスピアの作劇自体にもこの立ち上がりの遅さはの原因はあるのだろうけれど、この団体の上演様式はシェイクスピア作品が持つこの性質をさらに助長しているように思える。
しかし蒸留水のようにシェイクスピア芝居のエッセンスを伝えるこのスタイルは、後半に入り物語が収束に向かうと心地よいリズムを刻み始める。あまりにも淡々とした舞台で強烈な物足りなさはあるものの、シェイクスピア劇の台詞、そして小田島雄志訳のことばの魅力を、もっとも純粋なかたちで誠実に伝える舞台が、この団体の公演では楽しむことができると言える。

しかし今回は主人公のベネディックとベアトリスの人物造型があまりに人形的・定型的で、生硬な感じがした。この二人が持っているはずのはつらつさ、からっとした陽性の気質を僕はあまり感じることができず不満に思った。いつもは主演をはる平澤智之を中心に劇世界が形成されて行くのだけれど、今回の「から騒ぎ」ではこの中心となる二人が他から浮き上がってしまってるかのように見えた。似非インテリの役人は、機械的で平板な台詞回しが効果的に喜劇性を生み出していて、彼の珍妙で滑稽な台詞には観客もよく反応していた。前半はずっと低いテンションで展開したため、どうなるのかと思ったが、最後の大団円は幸福感と喜びに満ちていて晴れやかな気分で席を立つことができた。客演の役者が台詞を噛むことが多かったのが気になった。