閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ブラスティッド

http://www.spac.or.jp/09_spring/blasted
Shizuoka春の芸術祭2009

  • 演出:ダニエル・ジャンヌトー
  • 作:サラ・ケイン
  • 舞台美術:ダニエル・ジャンヌトー
  • 特別協力:マリー=クリスティーヌ・ソーマ
  • 出演:阿部一徳、大高浩一、布施安寿香
  • 製作:SPAC
  • 劇場:舞台芸術公園 稽古場棟「BOXシアター」
  • 上演時間:100分
  • 評価:☆☆☆☆
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舞台美術、役者の演技とも非常に質の高い舞台ではあったけれど、自分にとっては会心の作ではなかった。いろいろ不満がある。こちらの期待と思い入れが大きすぎたというのもあるけれど。サラ・ケインの『ブラスティッド』はその物語の概要を読んだだけで、こちらの妄想力を強烈に刺激する破壊的な暴力性がある。舞台上で再現するのはほとんどタブーと思われるような暴力の表象の連鎖がダイナミックな世界を作り出す。
強姦、フェラチオ、傷害、殺害といった場面の数々を、これらの表現のあざとい残酷さとまっすぐ向き合い、いかに演劇的手法によってこうした残酷さに説得力のあるリアリティを与えるかというところを期待していた。20台の娘が頭の中で思い描いた絵空事の残酷さを、芝居という嘘、見立ての枠組みのなかで、現実で行われる以上にリアルに再現するという難問が、こちらの妄想を凌駕するかたちでどのように演劇的に克服されるのか、期待していた。
視覚的にはきわめて洗練された舞台だったと思う。冷蔵庫の内部がぼんやりと照らし出すホテルの室内のがらんとした空間のセンスのよさは、優れたインスタレーション美術さながらだ。爆裂の場面で、暗闇のなか、スタッフがヘルメットライトで部分部分を照らしながら空間を汚していく工夫もすばらしい。
しかしそうしたビジュアル面での洗練が、作品の持つ猥雑さ、衝撃的な暴力性を薄めてしまっていたようにも感じられた。役者の熱演ぶりもすばらしい。しかしその演技上の工夫は、どこか型にはまった感じがする。いかにも「暴力をたくみに記号的に演じている」ように思え、僕はちょっとしらけた気分になった。
最後のイアンの「Thank you」のセリフに含まれるはず(と僕は思っていた)得体の知れないグロテスクが、今回の舞台は本当にあっさりと流されてしまったように思えたのが、とりわけ大きな不満だった。