閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

女殺油地獄

六月大歌舞伎 昼の部
http://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/2009/06/post_43-ProgramAndCast.html
片岡仁左衛門

  • 評価:☆☆☆☆☆
                                                  • -

昼の部のチケットを買っていたが寝坊してしまい見たのは仁左衛門の『油地獄』のみ。でも今月はこの演目だけ見られたらそれでよかったのだ。油屋与兵衛は仁左衛門のあたり役のひとつだが、年齢などの理由でこの役を演じるのがこれが最後になるという。

与兵衛は性根の腐りきった、大店のぼんぼん。家の金を使い込み、ちゃらちゃらと放蕩三昧の生活を送っている。見栄っ張りではあるが、侠気のかけらもない卑劣な弱虫、救いようのないどチンピラではあるが、姿形だけはやけにいいのが不愉快でしゃくに障るところだ。
この感情移入しようがないどチンピラの狼藉ぶりと卑劣さをたっぷりと見せたあと、それが油まみれの場のなかでの人妻殺しまでエスカレートしていくさまを描いただけの作品。屑人間の悪行が最初から最後までクレシェンドで奏でられる邪悪な《ボレロ》のような作品だが、この非道ぶりが仁左衛門のようないい男によって演じられると見事なドラマになってしまうのだ。

油まみれになり、ぬるぬるとすべり、転びながらの滑稽かつ凄惨な殺戮場面が優れた演劇的見せ場となることを見抜いた近松の眼力は凄い。そしてその場面を具現化する仁左衛門の姿は、こちらの感覚を痺れさせ、陶酔させる壮絶な演劇美に満ちている。
いつものごとく三階B席からの観賞だったけれども、これは一階席で観たかったなあ。