閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ブラックバード Blackbird

http://www.horipro.co.jp/ticket/kouen.cgi?Detail=126

  • 作:David Harrower
  • 訳:小田島恒志
  • 演出:栗山民也
  • 美術:島次郎
  • 照明:勝柴次朗
  • 音響:山本浩一
  • 衣装:宇野善子
  • 劇場:三軒茶屋 世田谷パブリックシアター
  • 上演時間:1時間50分
  • 評価:☆☆☆☆
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この戯曲は、自由聴講している講義で昨年度後半に読んだ作品なので、上演をとても楽しみにしていた。戯曲は独特の奇妙なエクリチュールで書かれている。単語1、2語でぶちぶちと改行が入り、フレーズの多くは完結せずに、他のフレーズに流れていく。つぶやくような、独り言のようなことばが、改行だらけの文のなかに多く挿入される。前半部では特に会話は微妙に噛み合わないまま、続けられる。話題の飛躍も多い。ただし物語の状況が明らかになり、文体に慣れてくると見た目ほど読みにくい英語ではない。表現や語彙は難しくないし、文体もリアルな会話体を模した素朴なものだ。ある種の現代口語演劇的テクストなのだと思う。そして異様なエクリチュールは、語り手の不安定な心理状態や台詞の言い方を示すト書き的な役割も果たしているように思った。
『悲劇喜劇』の今月号(2009年8月号)に戯曲の日本語訳が掲載されている。

舞台はとある工場の休憩室。殺風景で散らかっている。この工場で働く50過ぎの男性ピーターのもとに、20代の若い女性が突然訪問し、彼に面会を求める。15年前、彼女が12歳のとき、二人は「恋人」同士だったのだ。男は少女淫行で逮捕され収監された。彼らの再会は15年前の裁判以来だった。
警戒、動揺、追憶、憎悪、愛情といった様々な情念が交錯する対話を通じて、15年前の事件の真相が徐々に明らかになっていく。
しかしなぜ彼女は今になって彼に会いに来たのか、彼女はいったい何を求めているのか、彼の彼女への愛はどのようなものだったのか、といった問いかけに対する答えは観客に投げかけられたまま、芝居は幕を閉じる。

伊藤歩内野聖陽ともに演技の細部まで神経の行き届いた丁寧な芝居であり、その熱演ぶりは見応えがあった。しかしあの役を演じるには内野聖陽は若すぎるし、かっこ良すぎる。内野-伊藤だったら普通に成立してしまうお似合いのカップルではないか。男役についてはもっと中年ぽい、ハゲ・エロ親父風の風貌の役者のほうがこの芝居についてはより深い味わいがあったように思う。例えば橋爪功蒼井優という組み合わせが思い浮かんだ。

また世田谷パブリックという箱はこの芝居には大きすぎる。戯曲を読めば世田谷パブリックでやるなんて発想はまず出てこないと思うのだけれど。こじんまりした小屋で役者の表情の変化や細かい仕草などをじっくり観察しながら、味わいたい芝居だった。別の組み合わせ、別の演出家でいつかまたこの作品を見てみたい。