閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

うそツキ 大好き かぐや姫

兵庫県立ピッコロ劇団 ファミリー劇場
http://hyogo-arts.or.jp/piccolo/gekidan/hime/index.htm

  • 作:俵万智
  • 演出:平井久美子
  • 振付:森田守恒
  • 美術:加藤登美子
  • 音楽:橋本剛
  • 照明:西川佳孝
  • 音響:Alain Nouveau
  • 衣装:亀井妙子
  • 出演:吉村祐樹、今井佐知子、山田裕、橘義、原竹志、今仲ひろし、森万紀、亀田妙子、吉江麻樹、杏華、安達朋子、木全晶子、森好文
  • 劇場:塚口 ピッコロシアター大ホール
  • 上演時間:1時間40分
  • 評価:☆☆☆☆★
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兵庫県立の劇団、ピッコロ劇団の家族向け公演を娘と一緒に見に行った。
ピッコロ劇団は今年で15周年だそうだ。年に4−5本の公演を行っている。現在の劇団代表は岩松了
「うそツキ大好きかぐや姫」は俵万智による書き下ろしの新作ミュージカルだった。演出は劇団所属の演出家(兼役者でもある)平井久美子。上演時間は1時間40分。劇場のピッコロシアターは400席ほどの大きさ。舞台の奥行きがたっぷりとられている。間口もかなり広い。

大人も子どもも楽しむことができるすばらしい舞台だった。

まず脚本がよくできていた。
作品のベースとなるのはタイトルが示すとおり「かぐや姫」の物語であるが、大幅なアレンジが加えられ、原作の物語はかなり込み入ったやり方で、この作品のなかに取り込まれている。

まずかぐや姫の最後の部分が舞台上で演じられる。かぐや姫が月に戻る場面である。姫は別れの時、帝に不死の薬を贈る。そしてそれを身につけたとたん地上の記憶をすべて失ってしまうという「天の羽衣」をまとって月へと上っていく。この場面のあと、時代は1000年下って現代となる。11歳の男の子がかぐや姫の物語を読み終わると、そこに突然かぐや姫が降り立つのだ。このかぐや姫は月からやってきたのだが、その月は「うそツキ」であり、かぐや姫もその月の住民も嘘が大好き。ただしその嘘は人を傷つけることなく、人を楽しませ、日常を彩るような嘘でなくてはならない。しかし嘆かわしいことにこのところ人を陥れ、悲しませるような嘘がこの「うそツキ」に蔓延しはじめた。そこでかぐや姫は「嘘はまこと、まことは嘘」という妙薬(?)を探すために、地上に再び降り立ったという。少年は姫といっしょに「嘘はまこと、まことは嘘」を探すことになる。そして探す場所は、楽しい嘘が一杯だというへんな理由で遊園地。

この遊園地には怪しげな中年男のコーディネータに率いられた「お見合いツアー(?)」に参加する4組の男女もやってきていた。互いの愛を勝ち取ろうとうそまことの交じり合う駆け引きが男女のあいだで行われる。この4組の男女とかぐや姫と少年(この少年の名前は真君なのだ)が出会う。男たちは女たちの愛を勝ち取るために、超人気のため、予約しても一年後にしか受け取ることができないロールケーキを、一週間以内に手に入れることを約束することになる。この少年もこのロールケーキが欲しかった。というのも入院中の彼の祖母がこのロールケーキが大好きで、少年は祖母にこのケーキを買って持っていくことを約束してしまっていたからだ。

嘘をつくことはよくないことだ。うそつきは責められる。しかし人は生きていくなかで、嘘をつかないで生きていくことはできない。相手のことを思いやるがゆえの嘘もあるし、笑える嘘というのもある。嘘があるからこそわれわれの生活はよりニュアンスに富むものになっているともいえる。「真実」しかない生活の厳しさと荒々しさには私たちはおそらく耐えることはできないだろう。でもそれがどんなに「よい」嘘であっても、嘘には常にどこか苦味と切なさが伴うように思える。何らかの後ろめたさを感じずにいることは難しい。こうした嘘の持つ様々なニュアンスが、コミカルで叙情的なやりとりのなかでたくみに表現された脚本だった。
フェリーニの「私は嘘つきだが、誠実な嘘つきだ」ということばがこの芝居を見て思い浮かんだ。

ミュージカル仕立てとなっていたが役者たちの歌唱力もしっかりしていて、音楽の面でもがっくりすることはない。歌の場面が展開のスピードを邪魔することなく、むしろ物語のアクセントとして有効に機能していた。セリフや所作のタイミングもよく練られている感じがした。
場面転換の多い舞台だったが、シンプルな美術装置を使い、役者たちをダイナミックに動かすことで、スムーズにスピーディーに場面をつないでいく演出も見事だった。
1時間40分休憩なしとファミリー向き公演としては若干長尺だが、だれたところのない舞台だった。
関西ならではなのか、客席の子どもの反応も活発だった。役者のほうも、臨機応変に芝居の流れを壊さないように注意しつつ、子どもたちにアドリブで応える。そうしたリラックスした雰囲気もよかった。