閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

S高原から

南河内万歳一座
http://www.banzai1za.jp/index.html

  • 作:平田オリザ
  • 演出:内藤裕敬
  • 美術:加藤登美子
  • 音響:堤野雅嗣
  • 音楽:藤田辰也
  • 衣装:高本章子
  • 出演:内藤裕敬、鴨鈴女、新谷清水、重定礼子、福重友、前田晃男、藤田辰也、三浦隆志、他。
  • 上演時間:1時間45分
  • 劇場:こまばアゴラ劇場
  • 評価:☆☆☆☆
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関西を本拠に長年活動している小劇場劇団、南河内万歳一座による平田オリザ作品の上演。来週からは平田オリザ/青年団が南河内万歳一座の主宰者、内藤裕敬の戯曲の上演を行う。
『S高原より』は平田オリザ/青年団による「本物」を数年前に見たことがある。平田オリザの代表作の一つであり、僕もとても好きな作品だ。
上演がはじまって最初のうちは4年前にみたオリジナル版と南河内万歳一座版ののりの違いがもたらす違和感を楽しんでみていた。舞台は高原にあるサナトリウムだが、南河内万歳一座版では美術が粗大ゴミ、普通ゴミ、段ボール、青シートのホームレスのテントのような有様になっている。戯曲自体は大きな変更を加えられていないように思った。しかし万歳一座の役者たちの個性は、当然青年団の役者のクールでシニカルな雰囲気とは異なり、にぎやか、猥雑で、こっけいだ。時折見せる各役者の芸力と愛嬌によって何度も観客を笑わせながら、彼らの個性は次第に平田戯曲のなかに自然にとけこんでいく。平田・青年団版が涼やかな高原の隔離施設のなかでの冷たく乾いた雰囲気を描き出しているとすれば、南河内万歳一座は都市のなかに打ち捨てられたゴミの山のなか、蒸し暑さが残る夏の夕暮れのなかでの虚無と退廃的気分が表されているような感じがした。
平田オリザの『S高原にて』はやはり名作だと思った。かつての結核を連想させる死に至る病に犯された若者が隠遁する山中の療養所の情景。運命を甘受しつつも、その不条理を問いかけずにはいられない。いらだち、不安、恐怖、虚無といった感情が繊細なディアローグのなかからわき上がる。南河内万歳一座のバージョンは、役者の特性を効果的に用い、喜劇的場面をアクセントとして要所要所に取り入れながらも、戯曲の本質的部分はデフォルメせず誠実に伝える舞台になっているように思った。
来年初頭に上演される予定の三条会版の『S高原より』も楽しみだ。