毬谷友子は僕にとってほとんど信仰の対象である。そして毬谷信者ならば、彼女のライフワークである「弥々」の公演を見るのは、イスラム教徒のメッカ詣のようなものだろう。で、ようやくメッカ詣をすますことができた。信者としては恥ずかしい話だが、これまでこの一人語り、未見だったのだ。
日頃の行いがよかったので最前列中央という席だった。毬谷さまが目前三〇センチの距離で芝居していた。老婆に扮した毬谷さまであったけれど。
良寛への恋情に生涯を焼尽したアバズレ女の生涯を一人芝居で描く。あまりに切なく美しい物語にボロボロ泣いた。一六歳、五〇歳、七二歳の弥々の姿が演じられる。毬谷の実年齢は五〇歳に近い。年齢不詳の若々しさは保っているとはいえ、正直なところ、一六歳の奔放な阿婆擦れを演じるのを見るのはちょっとしんどいところがあった。仮面をつけて演じた七二歳の老婆の場が感動的だった。目前で全身全霊をこめて演じる毬谷友子の発する気に圧倒される。芝居の妖怪の域に入った感じ。あの芸の凄さは何かを演じる役者の領域を超えているような気がする。
1987年の毬谷友子の映像がYouTubeにあった。「今夜は最高」に出演したときのもの。すごいなあ。恐るべき天真爛漫ぶりというか、はじけぶり。そして驚異的な可愛らしさ。