http://www.parco-play.com/web/play/seafarer/index.html
- 作:コナー・マクファーソン
- 翻訳:小田島恒志
- 演出:栗山民也
- 美術:松井るみ
- 照明:小笠原純
- 衣裳:前田文子
- 出演:小日向文世 吉田鋼太郎 浅野和之 大谷亮介 平田 満
- 劇場:渋谷 パルコ劇場
- 上演時間:3時間(休憩15分)
- 評価:☆☆☆☆
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ベテランの中年俳優5名による渋い作品。安売りチケットも出ていたので空いているのかなと思ったらほぼ満席の状態だった。大人計画の荒川良々と平岩紙が見に来ていた。
アイルランド、ダブリンの郊外の住宅の半地下室が舞台。飲んだくれの50、60代の汚らしい親父たちが登場人物である。
休憩含み3時間弱、アル中親父がぐだぐだ喋っているだけなのだが、芸達者な役者たちの丁々発止のやりとりにひきこまれ、長さは感じなかった。加齢臭、酒臭さ、埃だらけの部屋の饐えた臭いが漂ってきそうな汚らしい舞台である。その汚らしさをリアルに再現した松井るみの美術がとてもいい。クリスマス・イブの一夜の物語なのだけれど、最後朝になったときに上方にある明かり窓から差し込む光の表現がとても美しい。希望なきだめ親父の悲惨な現実に、クリスマスの朝、かすかな安楽がもたらされたのか。絶望的な状況を酒で慰めるしかない貧者へ神が与えたささやかな救いが最後に提示されていた。
物語と主題はきわめてシンプルでクラシックだ。中世の世俗劇を連想させる素朴な味わいがある。しかしその語り口は今、イギリスで流行っている「in-ya-face-theater」が共通して持っている生々しく、暴力的なリアリティが感じられる。
役者は流石にみな達者だけど、それぞれの芝居が少々煩すぎて、この戯曲の持ち味を殺しているように私には思われた。だらだらとあらっぽく書かれているように見えて、とても繊細で細部まで書き込まれた戯曲だと思う。戯曲の冒頭部を読んだが、かなり厄介で難しい。アイルランド方言が出てくるだけでなく、会話のつながりがルーズで、飛躍がある。そして情報のない、埋め草的、ノイズのような表現が多い。アイルランドの50代のどうしようもない酔っぱらいの口語表現をリアルに写し取った、アイルランド版現代口語演劇のような芝居だと私は思った
ベテランの「名優」揃いということで役者同士の間で互いに気負いもあったのかもしれないが、芝居がとにかくくどく感じられた。会話のリアリティを重視した原文のノイズの部分が、役者の主張の激しい演技によって殺されてしまっていたことに不満を覚える。パルコ劇場500人の客席ではこうした「名演」じゃないとなかなかテクストが観客に届かないのかしれないけれど。もっと力を抜いてだらだらやっても(そうしたほうが)十分に面白い芝居だと私には思えるのだ。
「海をゆく者」というタイトルだが、海をゆく船乗り、漁師の話は会話のなかで一瞬触れられるだけ。戯曲のエピグラフとして八世紀のアングロ・サクソン語の詩、「the Seafarer」が引用されている。アイルランドではよく知られている古詩だそうだ。作品タイトルはこの詩から採られている。「海」はこの戯曲では、芝居の登場人物たちの厳しく生きづらい世の中の比喩となっている。