閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

4.48 サイコシス

http://festival-tokyo.jp/program/ameya/index.html

  • 演出:飴屋法水
  • 作:サラ・ケイン
  • 翻訳:長島確
  • 出演:山川冬樹、安ハンセム、石川夕子、大井健司、小駒豪、グジェゴシュ・クルク、武田 力、立川貴一、ハリー・ナップ、シモーネ・マチナ、宮本 聡、村田麗薫
  • 音像設計:ZAK
  • 照明デザイン:郄田政義(株式会社リュウ)
  • 舞台監督:大友圭一郎、寅川英司+鴉屋
  • 小道具:栗山佳代子
  • 美術コーディネート:大津英輔+鴉屋
  • 衣装コーディネート:コロスケ
  • 上演時間:2時間
  • 劇場:東池袋 あうるすぽっと
  • 評価:☆☆☆☆★
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荘厳な宗教的儀式に立ち会ったかのような舞台を体験することができた。
重なり合う数々の肉声が悩み苦しむ魂への鎮魂歌を奏でているように私は感じた。

サラ・ケインはこの作品の執筆の後、28歳で自ら命を絶つ。鬱病で入院中に書かれたこのテクストはいわばサラ・ケインの遺書であり、こうしたコンテクストを無視して作品を受容することは難しい。サラ・ケインが28年の短い生涯に残した戯曲はわずか5編に過ぎない。

『4.48 サイコシス』を執筆中、彼女はこのテクストを書き終わるとき、自分の生涯も終わることを自覚していた。一字書くごとに、自分の生の終着点へ確実に一歩近づいていく。彼女は死を直視する。明晰な意識と強靭な意志をもって、コントロール不能になっていく自身の姿を観察し、記録していく。
テクストは役柄によってせりふが書き分けられた伝統的な戯曲の形態を持っていない。彼女自身のモノローグのような自由な形式で書かれている。飴屋演出ではそのモノローグは、複数の人間の声に振り分けられ、共有される。美しく、厳格なサラ・ケインのことばは、彼女自身の個人的な悲鳴であると同時に、多くの人間が心の奥にかかえる普遍的な叫び声でもある。外国語なまりのあるギクシャクとした日本語、無機的な天気予報のアナウンス、ホーミーの幻想的で心の芯に直接うったえかけるような響き、心臓の拍動、多様な音の重なりによって一人の女性が書き残したか細いテクストが彩られる。飴屋演出による『4.48 サイコシス』は単独の声をこうやって多声化、普遍化することによって、サラ・ケインの魂を慰めているようにも思えた。