閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

春のめざめ Spring Awakening

劇団四季
http://www.shiki.gr.jp/applause/springawakening/index.html

  • 台本・歌詞:スティーヴン・セイター Steven Sater
  • 音楽:ダンカン・シーク Duncan Sheik
  • 原作:フランク・ヴェデキント Frank Vedekind
  • 装置:クリスティーン・ジョーンズ Christine Jones
  • 衣裳:スーザン・ヒルファティ
  • 照明:ケヴィン・アダムス
  • 音響:ブライアン・ローナン
  • 振付:ビル・T・ジョーンズ Bill T. Jones
  • 演出:マイケル・メイヤー Michael Mayer
  • 日本語版歌詞・台本:劇団四季文芸部
  • 演出協力:浅利慶太
  • 音楽スーパーバイザー:鎮守めぐみ
  • 出演:林香純、撫佐仁美、岸本美香、山中由貴、勝間千明、上川一哉、三雲肇、一和洋輔、竹内一樹、白瀬英典、加藤迪、都築香弥子、田代隆秀
  • 上演時間:2時間半(休憩20分)
  • 劇場:浜松町 自由劇場
  • 評価:☆☆☆☆★
                                                            • -

原作は十九世紀後半のドイツの劇作家のヴェデキント。2007年にトニー賞を8部門で受賞したミュージカル作品で、劇団四季では昨年に半年上演され、今回が再演となる。上演時間2時間半(休憩10分)。

思春期の青臭い性意識、セックスの問題を正面から扱ったミュージカルということでこの作品に興味を持ったのだが、期待に違わぬ面白い作品だった。大いに満足する。

舞台は十九世紀後半のギムナジウムであり、登場人物はギムナジウムに通う思春期の男女だ。性に対する彼らが持つ自然な好奇心は、当時のブルジョワ階層の親たちが持つ偽善的道徳観によって押さえつけられる。性だけではない。ギムナジウムでは教師は権力性を振りかざし、若者たちの自由の欲望を抑圧する。思春期の若者たちに対する性・生の両方に関わる抑圧のなかで、彼らの感情と衝動が爆発し、悲劇的な事件へと行き着く。

一月ほど前にパリのコリン劇場で『春のめざめ』の演劇版の上演を観たのだが、この舞台では性の抑圧のグロテスクさが強調された陰惨で不気味な舞台だった。ミュージカル版の結末も悲劇的ではあったが、最後の最後で希望が提示される。見終わった後の感覚は爽快だった。

劇場客席に入ると既に幕が開いていて、舞台奥でバンドが演奏を行っていた。舞台上両脇にはステージ・シートが設けられている。キャストも舞台袖にひっこむのではなく、このステージ・シートの付近で待機していたように思う。
まず舞台美術と照明の美しさに目を奪われる。背面は大きな煉瓦の壁で、絵などのオブジェがたくさん掛かっている。多彩な照明効果による変化が視覚を楽しませる。とりわけオープニングでつり下げられた裸電球がぱっと明るく舞台上を照らし出した瞬間は思わず「あっ」と声が出るほど美しかった。

ロック調の曲がとても良い。耳に残るナンバーが何曲もあった。曲の入るバランスもよかった。キャストの歌唱力も高く、音楽面での満足度も高かった。歌ではない台詞のときは四季特有のかくかくした発声がやはり気になったけれどこれはどうしようもない。大人役を掛け持ちで演じる二人の俳優を除いては、出演するのは若い役者ばかりだ。ヒロインのベンドラを演じた林香純さんの可愛らしさが印象的だった。他の女優も可愛い。

後方客席に空席が目立ったけれど、カーテンコールはかなり熱狂的だった。これだけ面白い舞台なのだから、今回の舞台に対する観客の喝采は私も納得できる。トニー賞8部門受賞も納得できる充実した舞台だった。
性的な事柄で頭がいっぱいな時期にいる、登場人物と同じ世代の若い人たちに見てもらいたい舞台だ。何となくチケットを買ってしまった舞台だが、観に行ってよかった。