ENBUゼミナール 2009年度春期演劇コース劇場公演 柴幸男クラス
http://enbuzemi.co.jp/event/festa10_spring/
- 作・演出:柴幸男(ままごと)
- 美術:青木拓也
- 照明:森友樹
- 映像:野田奈々絵
- 企画・制作:ENBUゼミナール
- 出演:河野真紀、細井寿代、深瀬寛子、斎藤浩史、矢嶋友也、岡田瑞葉、菅野智、田村麻未、田中祐佳、関田剛志、福江慈孝
- 上演時間:45分
- 劇場:笹塚ファクトリー
- 評価:☆☆☆★
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演劇の学校、ENBUゼミナールの修了公演だとのこと。
希望と不安で一杯の上京と夢やぶれ諦念の帰郷の心象風景の断片が、ミニマルミュージックのように重ねられ、反復される。群読も多用され、修了公演にふさわしい形式と内容を持つ作品だったように思う。提示された様々な素材の構成のうまさなど技巧のさえはさすが柴演出といった感じで感心したけれども、主題の陳腐さ、そしてとりわけテクストの薄さに不満を覚えた。
しかし「さよなら東京」とは、ゼミナール受講生にとってはいささか残酷な内容であるようにも思えた。文学、演劇、音楽などの芸術関連の教師は、大半の学生には決して到達できない甘美で残酷な夢を見せて酔わせることで、生活の糧を得ているペテン師のようなものだと思うことがある。そして散々夢を見させた後、学生たちに現実をつきつけ引導を渡すのもやはり教師の役割であるように私は思う。この作品はまさに受講生に演劇の甘美な夢を見せながら、無慈悲な現実も同時に示唆しているように私には感じられた。柴氏自身の教師としての後ろめたさが作品に込められているようにも思えた。
「さよなら東京」は修了していく受講生たちだけに捧げられたものではない。これからしばらくの間東京を離れ、地方での演劇活動を中心に行う柴氏自身の物語でもある。しかし若くして岸田賞を受賞し、その才能を多くの人々に賞賛される柴氏は東京を離れるといっても、その前途には希望がある。彼は夢破れて田舎に戻る者たちとは対照的な存在なのだ。経済的な不安は抱えていくかもしれないが、演劇人としての自分の才能に絶望することはおそらく彼はないだろう。