閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ピクニック(1946) UNE PARTIE DE CAMPAGNE

見終わった直後は呆然とし、胸が締め付けられるような思いをした。軽やかで淡々としているけれど悲痛な映画だと私は思った。
ブランコ、釣り、川の風景、雨、森、そして主人公の女性の恋の相手となる男の陰鬱さと虚ろさ、あらゆるものが互いの暗喩として機能し、ハーモニーを形作っているように感じられる。長調の曲なのだけれど、短調で書かれた曲のようにもの悲しく寂しく響く、そういう曲を連想させる映画だ。

舞台はパリの郊外にある田園である。田園にはゆるやかな小川が流れている。
パリからブルジョワの家族が田園に遊びにやってくる。初老の夫婦とその娘、耳の遠いおばあさん、そして娘の婚約者の5名である。父親は尊大な風で知ったかぶりをして、せかせかと落ち着きなく動き回る。娘の婚約者は川釣りが気になってしかたない。娘よりも川釣りのほうが大事のようだ。この二人の間に婚約した者同士の親密さは感じられない。田舎の住人である若い男二人が娘に目をつける。彼らは同行した男たちにほったらかしにされた母娘を船遊びに誘う。田園でのちょっとしたアヴァンチュールの誘いに母娘は心浮き立つ。娘と組みになった男は船に乗っているうちに美しい娘に欲情する。虚ろな目をした陰気な男だ。最初は男を拒否していた娘は、ある瞬間、男の虚ろな表情に吸い込まれるかのように、すっと男の腕のなかに身をゆだねる。森のなかで二人は束の間の情事に耽る。娘の涙に、川面に水紋を作る雨の風景が重なる。数年後、同じ場所。娘は婚約者と結婚していた。今では夫となった男とあの川辺の森に来ている。田舎の男が偶然二人を発見する。夫はすぐそばにいたが昼寝をしていた。数年ぶりに出会った二人は短い言葉のやりとりを行う。
男「ちょくちょくここに来るんだ。だってここは僕の最も美しい思い出の場所だから」
女「私はね、毎晩この場所を思い浮かべているわ」
夫が目を覚まし妻を呼ぶ。若い夫婦は船にのってその場所を離れる。その様子を田舎の男は木陰から呆然とした様子で眺めている。