- 作・演出:タニノクロウ
- 音楽:阿部篤志
- 構成:タニノクロウ、玉置潤一郎、山口有紀子、吉野明
- 美術:田中敏恵
- 特殊造形:小比木謙一郎(GaRP) 福田雅朗
- 照明:今西理恵(LEPUS)
- 音響:中村嘉宏
- 出演:五十嵐操、上田遥、坂倉奈津子、島田桃依、瀬口タエコ、高田郁恵、浜恵美、ビア スズキ、明石竜也、長江英和、マメ山田
- 演奏:阿部篤志(Pf)・山本大将(Vn)・渡邊一毅(Cl)・秋葉正樹(Dr)
- 上演時間:90分
- 劇場:三軒茶屋 シアタートラム
- 評価:☆☆☆☆★
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私にとっては非常に刺激的な、遊戯的なパフォーマンスだった。黒いユーモアに浸された悪趣味の美学を堪能した。
庭劇団ペニノの公演は私の心の奥にある黒い欲望を奇抜で独創的な創意によって表現される歪んだ諧謔によって満たしてくれる。「アンダーグラウンド」は再演だが、初演の設定を引継ぎつつも、初演とは別の作品になっていた。初演は実はそれほど楽しめなかった。作品をどう捉えていいのかよくわからなかったのだ。
今回は劇場に入ったとたんワクワクした。黒い背景の中央にレトロでステレオタイプな手術室が照らされている。両脇には音楽の演奏家のピットがある。手術の進行に合わせ、音楽が生演奏で流れるという枠組みは前回と同じだ。ただし音楽は初演のときは激しいフリージャズ風の音楽だったような気がしたが、今回はピアノ、ドラム、バイオリン、クラリネットという変わった構成でクラシックの室内楽風の音楽だった。白塗りのマメ山田が舞台をとりしきる指揮者だ。ペニノの舞台では小人である彼の身体的特性、異形性が最大限に生かされる。マメ山田はグロテスクな異世界、見せ物小屋の世界への案内役だ。マメ山田はこれから行われる舞台が手術のショーであること、いかにリアルに見えてもそれはフェイクであることを強調する。そしてこの手術がきっかり一時間で終了することが予告される。
音楽とともにショーが始まる。前半はゆっくりと、そしてリアルに開腹手術のありようが再現される。手術といっても臓器をどんどん取り出しているだけだ。最終的に心臓を取り出すことを目的としているらしい。手術の様子は舞台両端に設置されたモニターに映し出される。正直なところ、「手術」が始まって15分ほどはモニターを見ながら気分が悪くなった。実質的にはカエルを解剖するようなのりで、人体解剖が行われている。こんなものをショーして再現し楽しむなんてひどい冗談だ。この悪趣味の延長線上にはおそらく格闘技、闘牛、本当の殺人場面を娯楽用映画としているというスナッフフィルム、そして古代ローマの剣闘士試合があるに違いない。観てはならぬもの、楽しんではならぬものを、観て楽しむことで感じる後ろめたさの裏には快楽もあることは否定できない。ペニノの「ショー」はわれわれの心の邪悪な疚しさを刺激し、怪しく隠微な悦びへと誘う。
後半は進行が加速する。臓器が一つ一つ取り出されるにつれ、舞台はどたばたの度合いが加速され、ナンセンスな黒い笑いが支配的となる。狂騒的な展開のなかで、背景で流れる音楽だけでなく、舞台上の役者の動き、音楽と役者の動きのコンビネーションが見事なポリフォニーを奏でる。メカニックにも思えるそのハーモニーが素晴らしい。最高度の洗練と独創を感じさせる表現によって、圧倒的に無意味でグロテスクなものが表現されるパラドクスが猛烈にかっこいい。