閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

何も言えなくて…唖

ゴキブリコンビナート
ゴキブリコンビナートですよ

  • 作・演出・美術:Dr.エクアドル
  • 作曲:Dr.エクアドル、オマンサタバサ
  • 電飾:オメス吉祥寺
  • 衣裳:ダイヤモンド☆FUYUKAI
  • 出演:Dr.エクアドル、オマンサタバサ、レディー・ボボ、病気マン、若人あきこ、アグネス・マトン、油絵博士、中根道治、オメス吉祥寺、スピロ平太、スガ死顔、碓井清喜、後藤遼、畠山俊、美館智範、福岡義貴
  • 上演時間:90分
  • 場所:木場公演多目的広場 特設テント
  • 評価:☆☆☆☆★
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エスカレートしていく観客のサディスティックな期待を決して裏切らないゴキコンの律儀さ、誠実さが怖い。いつも通り、怖るべき濃度のアングラミュージカルだった。過激な娯楽性によって我々の心のなかに潜む猥雑嗜好、俗悪趣味をぐじゃぐじゃにかき乱す。こういう舞台に立ち会えるのは幸せだ。

テントの設置された会場は「多目的広場」となっているが、こんな破格破天荒な公演に対しても利用が認められるのだから東京都の寛大さはたいしたものだ。深緑が香り、親子がのどかにスポーツを楽しむ公園内で、ゴキコンの小屋はまがまがしい存在感を示していた。ゴキコンが前回この公園で公演を行ったのは3年前だったように思う。その時は屋外に劇場というより櫓みたいなものが組まれ、それを観客が取り囲むかたちだった。開放的な舞台だった。

今回は屋根もブルーシートで覆われている。テントに入ると中央部に設置された幅3メートルほどの舞台(前半は傾斜付き)を挟んで両側が観劇スペースとなっていた。観客は150名ほどはいたのではないだろうか。人いきれでテント内はむしむしとして暑かった。
オープニングからいきなりアクセル全開である。義父の介護に疲弊する嫁の「介護の歌」とダンス。親しみやすい旋律と歌詞、そして演者の乖離の激しさが素晴らしい。垂れ流し状態の義父の介護に疲弊して、義父を憎悪する嫁。しかし義父の死期が二ヶ月後に迫っていることを知ると、義父の莫大な遺産を目当てに嫁と夫は態度を豹変させる。そこへこれまで夫妻が知らなかった、義父の愛人、隠し子が続々と現れる。彼らは皆、下層階級の人間で社会の周縁で不遇な生活を送っている。義父は自分の遺産が彼らのものとなることを望んでいなかった。義父は自分の財産を聾唖者の施設に寄付するよう遺言を残していたのだ。なぜ聾唖者の施設に? 義父と彼の息子たちの過去の思い出が演じられ、その秘密が明らかになっていく。

正直なところ、前半部でぶっ飛ばしすぎ、後半以降はちょっとだれた感じもある。これもいつものことではあるが。スタンディングでの観劇のため、こちらの疲れの問題もあるのかもしれない。観劇中はいろいろな液状のものや泥が飛んでくるので油断がならない。頭の上から役者が落ちてきたりするし。先に見た人からマスク着用を進められていた。匂いがひどいのかと思えば、汗や体臭、あとわけのわからない液体から発する香りが混じりあった匂いもけっこうひどいのだが、土埃がすごい。パワーショベル二台がテント内に乱入したのには笑った。このパワーショベルはレンタルされたものだろうが、レンタル業者が目の当たりにすれば激怒するに違いない使い方がされていた。

最後のオチはハッピーエンド(?)で奇妙にさわやかな脱力オチ。醜く、あさましい姿を観客にさらけ出し、怪我をもいとわない役者たちの根性と覚悟には大絶賛の拍手を送りたかったのだが、カーテンコールはなかった。