閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

東京ノート(日中韓3ヵ国版)

プログラム詳細|第17回 BeSeTo演劇祭

  • 作・演出:平田オリザ
  • 美術:杉山至
  • 照明:岩城保
  • 音響:緒方晴英
  • 衣裳:有賀千鶴、正金彩
  • 舞台監督:中西孝雄
  • 出演:山内健司、森内美由紀、松田弘子、古屋隆太、能島瑞穂、後藤麻美、河村竜也、兵藤公美、井上三奈子、堀夏子、大竹直、大塚洋、小林智、村田牧子、秋山健一、たむらみずほ、ツァオユエ、ユイイン、ベ・ジンファ、キムハリ
  • 劇場:新国立劇場 特設会場
  • 上演時間:2時間
  • 評価:☆☆☆☆☆
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新国立劇場の中劇場に通じる階段の下に設置された特設舞台での上演。劇場空間を「美術館」に見立てての上演だった。奥行きが深く、天井が高い広大な劇場空間を効果的に利用した実に素晴らしい舞台だった。
青年団/平田オリザの作品があまり好きでない人にも是非見て欲しい舞台だ。『東京ノート』は平田の代表作であり、彼が確立した現代口語演劇のスタイルが十全に生かされた傑作である。その傑作がまさにその作品に相応しい理想的な空間で再演されている。今日の夜の公演では1/3ほど空席があった。信じられない。

がらんとした広大な空間の空虚さが何とも言えぬ不安感を増幅させている。美術館のロビーで落ち合う人たちの弱々しい言葉のやりとりが辛うじて、彼らの背景にある世界の崩壊を食い止めているように感じられる。語り続けていないとすぐにそこら中に亀裂が入り、崩れてしまいそうな脆さが、様々なレベルの象徴的な表現の重なりのなかで描き出される。遠いヨーロッパの国々で行われている戦争の暗い影がひたひたと彼らの生活に忍び寄るのを感じ取っている。そして一見平凡平穏な彼らの日常も波乱、破滅を予感が薄く漂っている。かすかであるが確実に彼らが感じているおびえ、不安、憂鬱が繊細な対話のやりとりから伝わってくる。前景でリアルに表現される彼らの芝居はすべてその背景にある大きな共同体が抱える不安の象徴的表現となる。芝居のあらゆるパーツが見事なハーモニーを作りだし、全体で荘厳な交響曲(例えばシベリウスの音楽を連想させるような)を奏でているようであった。私はその静謐で悲しい音楽の壮大さ、繊細さ、優麗さに圧倒された。