閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

F/T テアトロテーク

F/Tテアトロテーク | フェスティバル/トーキョー10 FESTIVAL/TOKYO トーキョー発、舞台芸術の祭典

  • そのヨーロッパ人をやっつけろ!(1993)
    • 作・演出:クリストフ・マルターラー
    • 美術・衣裳:アンナ・フィーブロック
    • 音楽:リューディ・ホイザーマン、ユルク・キーンベルガー、クリストフ・マルターラー
    • ドラマトゥルク:マティアス・リーリエンタール
    • 上演時間:120分
    • 評価:☆☆☆☆☆
  • 私の紅衛兵時代(1993)
    • ウー・ウェングアン(呉 文光)
    • 上演時間: 134分
    • 評価:☆☆☆☆
  • アリアーヌ・ムヌーシュキン:太陽劇団の冒険(2009年)
    • 作・演出:カトリーヌ・ヴィルポー
    • 75分
    • 評価:☆☆☆★
  • 演劇実験室「天井桟敷」ヴィデオ・アンソロジー
    • 作、出演:寺山修司
    • 時間:140分
    • 評価:☆☆☆
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F/Tの企画、テアトロテークから4本見た。フェスティバル上演作品に関わる映像作品を公開する企画。上映される作品はいずれも滅多に見られないものだ。
4日(木)はドイツ語圏スイスの演出家、クリストフ・マルターラー演出の『そのヨーロッパ人をやっつけろ!』@フォルクスビューネ劇場を見た。実に刺激的で素晴らしい作品だった。こういう前衛作品が15年以上にわたって100回以上上演されるドイツ語圏の演劇風土はおそるべきものだ。ベルリンの壁崩壊後の虚脱したかのようなドイツの混乱の風景を劇中で演者によって演奏される歌によって表現する。古びた殺風景なカフェのような場所にいる演者たちによる惚けたような演奏ぶり。意識的に崩している曲が多いけれど、演奏技術、合唱技術は相当なレベルだった。私が求める痺れるような諧謔と前衛表現があった。凄い作品だ。「現代ドイツ演劇万歳!」と叫びたい。
5日(金)には2本見た。一本目は「私の紅衛兵時代」。十代の頃に紅衛兵として文化大革命の渦中で青春を燃焼させた五人の人物へのインタビュー。撮影は1992年で五人の年齢は40代。巧みな問いかけによって文化大革命の狂熱が浮き彫りになる。どっしりとした見応えがある作品。後の時代から見ると文革は集団ヒステリーによって多大な犠牲者を生み出した民衆運動ではあるが、五人は文革の経験をいまだ全面的に否定できない。文革のよって理想に燃え、個人が歴史というものに関わり、その主役であるという感覚を手にすることができた。その高揚感、充実感は何者にも代え難いものだったようだ。陰惨なつるし上げの場面を話すときもその表情はどこか楽しそうだ。文革の被害者に対しては不感症になっているようにさえ思える。
二本目は太陽劇団、アリアンヌ・ムヌーシュキンのドキュメンタリー。劇団の歩みを80分弱でコンパクトに手際よくまとめている。半世紀にわたって創作力を維持しているというのは驚くべきことだ。実際、太陽劇団の火薬庫劇場での公演は独特のホスピタリティと演劇的創意で非日常空間の高揚感をいまだ維持している。ちょっとムヌシューキンに阿り過ぎているような感じもあり。怒らせると恐そうだからなあ。
6日に見た『演劇実験室「天井桟敷」ヴィデオ・アンソロジー/寺山修司」は天井桟敷の16年間の活動を上演記録と寺山へのインタビューを構成して140分にまとめたもの。1993年に上映されたらしい。天井桟敷の活動は1967年から83年。80年代以前の上演については映像は断片的にしか残っていない。そもそもその当時はヴィデオなど映像機材が高価で、演劇の公演記録を映像のかたちで記録するという発想があまりなかったようだ。残っている映像の状態もよくない。ほとんどYoutubeのレベル。主要作品は写真もしくは映像でおおむね紹介されていたが、いかにも乱暴にぶつ切りに編集したという感じで、映像抜粋で見てもあんまり面白くはない。画像も荒い。ただ70年代にやった阿佐ヶ谷の町を舞台にした「ノック」などの街頭劇の試みは実に刺激だ。解説の扇田昭彦氏によると寺山自身はこの街頭劇の試みを本当はもっと行い、発展させたかったようだ。実際には予算やスタッフの確保、警察の介入などの問題があって、70年代後半からは再び舞台劇へと回帰していく。最後の「レミング」、「百年の孤独」の舞台はNHKがその全編をヴィデオ撮影しているはずだとのこと。「レミング」は昨年NHKBSで1983年の公演の放映があったようだ。見たかったなあ。
今日見た抜粋映像の多くは画像が荒くて、しかも編集も今ひとつで作品の面白さが伝わらない。NHKが持っている舞台のアーカイブは相当な量あるらしいが、その多くは未整理のまま、一般に公開されていないとのこと。うーん。