閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

りんごりらっぱんつ

劇団競泳水着
劇団競泳水着 OFFICIAL WEB SITE

  • 作・演出:上野友之
  • 舞台監督:藤田有紀彦
  • 照明:島田雄峰(lighting staff Ten-Holes)
  • 音響:星野大輔
  • 美術:細野今日子
  • 衣裳:川村紗也
  • 出演:細野今日子、大川翔子、川村紗也(以上、劇団競泳水着);今村圭佑(Mrs.fictions)、金丸慎太郎(国道五十八号戦線/贅沢な妥協策)、川上友里(はえぎわ)、木村美月(クロムモリブデン)、倉田大輔、澤田慎司、ザンヨウコ(危婦人)、根津茂尚(あひるなんちゃら)、真下かおる(くねくねし)、和知龍範
  • 劇場:新宿三丁目 サンモールスタジオ
  • 評価:☆☆☆☆
                            • -

団初見。
胴長でつくしんぼうみたいにひょろっと細い女優、大川翔子さんを昨年から黒澤世莉氏演出の舞台で見ていて、その個性的な風貌としれーっとした雰囲気が好きになった。この大川翔子さんを含め可愛らしい女優三名が所属する劇団の公演ということで行くかどうか迷っていたが、twitterなどでの評判がとてもいいので観に行くことにした。

評判通りとても面白い芝居だった。脚本がよくできている。甘く切ない青春群像もの。劇中では複数の場所での二十数年の時間が経過が描かれているが、巧みな構成と抽象的な舞台美術を生かすことで時の流れと場の転換をスムーズにつないでいる。状況が過不足なく舞台上で示され、芝居のリズムもいいので退屈することがない。

女優陣は劇団所属の三名の他、客演の女優も可愛らしい。男優も若くて細身のハンサムな役者が揃っている。物語は上京しパティシエールの道を選ぶ妹が主人公。クールで感情の動きがあまり見えない彼女の生き方には、事故で若くして死んでしまった姉への思いが影響している。妹は図らずも姉が志望してたパティシエールを自分の職とすることになる。この姉妹の関係に妹とルームシェアしている男の兄弟間の軋轢が対比されることで物語に膨らみがもたらされる。さらに妹が働くレストランでのエピソード、妹がふった元彼氏にその女友達が語るエピソードなどが絡まりあい、最後にひとつに重なる。長い年月を経たあとで、様々な偶然の重なりによって死んでしまった姉への哀惜から妹はようやく解放される。そして自分の幸せのために人生の新たな一歩を踏み出しはじめるという希望に満ちたラストシーンは感動的だった。

極めて完成度の高い、素敵な作品ではあったけれど、美男美女による青春群像劇というのは見ていてどこか白けてしまうところもある。これはいかにも現実に存在しそうであり、手に入りそうではあるけれど、実際のところ、私には無縁であった種類の甘美な青春だったからだ。こういう「夢」を見させるがゆえに劇団競泳水着は「トレンディドラマ」なのだろうか? しかし青春の描写はフィクションのなかでも、かろやかで洒落たTD(トレンディ・ドラマ)風ではなく、もっと生々しくみじめで情けないDT(童貞)風であって欲しいように私は思うのだ。

女優も可愛かったけれど、隣に座った観客がまた滅多に見かけることができないようなメガネ美人だった。舞台にも隣にも美女となるとさすがに芝居に集中するのは難しい。「なんてきれいな人なんだろう」と気になってしかたない。
その隣席の美女のお腹が観劇中にきゅーきゅー鳴るのだ。お腹が空いていたのか? このきゅーきゅーお腹がなる音もまた芝居の内容に劣らず切ない美しさに満ちていたのであった。