閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

親指こぞう ブケッティーノ

親指こぞう?ブケッティーノ 

  • 原作:シャルル・ペロー
  • 翻訳:とよしま洋
  • 演出:キアラ・グイディ
  • 音響デザイン・美術デザイン:ロメオ・カステルッチ
  • オリジナル版脚色:クラウディア・カステルッチ
  • オリジナル版チーフ・ノイズメーカー:カルメン・カステルッチ
  • オリジナル版企画製作:ソチエタス・ラファエロ・サンツィオ
  • 出演:ともさと衣(ころも)
  • 劇場:さいたま市プラザノース 多目的ルーム
  • 上演時間:1時間
  • 評価:☆☆☆☆★
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『親指こぞう プケッティーノ』は昨年F/Tで来日公演を行ったロメオ・カステルッチが率いるイタリアのソチエタス・ラファエロ・サンツィオによって制作・上演された子供向きの演目。数年前に日本語版が制作され、ともさと衣によって公演が行われている。

この2月にあうるすぽっとでこの作品の公演があって観に行くつもりだったのだが、チケットが売り切れで観に行くことができなかった。あうるすぽっとはかなり客席数があるし、あの劇場での公演でチケット売り切れという経験がなかったので予約をずるずる先延ばしにしていたのだ。売り切れになった原因は客席数が少ないからだ。この作品の客席と作品鑑賞の仕方はきわめてユニークで、今回の公演も各公演50席しかない。子供向き芝居なので親が同伴することが大半だろうから、25組ほどで一公演が埋まってしまうことになる。

ちらし裏にこの芝居のための「劇場」の特異な形態については記載されている。
劇場は屋内に設置された色い木の小屋で、カーテンをくぐって中に入ると裸電球が一つ。ごわごわした厚手の記事のコート(?)を身にまとった語り手が一人いて客を誘導する。小中学校の教室ほどの広さの空間には小型の木製のベッドが並んでいて、観客はそのベッドに横になり毛布に潜り込んだ状態で、語り手の語りに耳を傾ける。その小屋は修道院の僧坊を思わせる薄暗い空間で床には木のチップが敷き詰められている。

小4の娘と一緒にさいたま市まで観に行った。どうせならともさと衣さんのすぐそばのベッドでお話を聞きたかったのだけれど、受け付け開始15分後ぐらいに到着すると整理番号は40番だった。劇場に入ったとき、ともさとさんの付近のベッドはすでに埋まっていて、私のベッドは壁際の端っこ、二段ベッドの上段に寝た。狭くて落ちそうでちょっと恐かった。寝不足状態の上、部屋が暗いので毛布にくるまっているとそのまま寝込んでしまいそうだ。語り手のお姉さんが最初に「目をつぶってください」と言うのですけど、素直に目をつぶっていたら眠り込んでいたように思う。


語りもの演劇の可能性を切り開く斬新(かつ語り物の原点回帰ともいえる)な演出で非常に興味深い公演だった。語り手であるともさとさんが声色を変え何人もの人物を演じ分ける。それに加え、計算された音響効果が多彩で臨場感のある音環境を作りだし、聞き手の想像力を刺激する。聴覚的、視覚的要素だけでなく、毛布やベッドから伝わる触覚、木製のベッドの香りなどの嗅覚など、さまざまな身体的感覚に訴える体感型の演劇だった。お話はおおむねシャルル・ペローの原作通りだが、人食い鬼の迫力が凄い。こどもたちもよく反応していた。このスタイルで他の作品も見てみたい。語り手のお姉さんが添い寝して、耳元でお話をささやいてくれるならもっと素晴らしい公演になったと思う。「千一夜物語」とか聞いてみたい。

娘は魔法の長靴を奪われ、置き去りにされた人食い鬼のその後がどうなったかをとても気にしていた。お芝居は面白かったけれどああいう宙ぶらりんの終わり方はよくないそうだ。まああの芝居で一番インパクトがあるのは人食い鬼だから、彼のその後が語られないのは確かにちょっと気持ちが悪い。

ともさと衣さんがとても可愛らしい女優なのにその姿形をしっかり見られなかったのが残念だった。会場内が暗いし、彼女は語り終わったらすぐに出て行ってしまった。鬼の行く末についてそんなに気になるのだったらお姉さんに聞けばよかったのに、と娘に言うと「だってすぐに出て行ってしまったんだもん」と言っていた。