閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

エトランゼとエトランゼール

パントマイム シルヴプレ 第七回公演
年年歳歳話相似

  • 作・演出・出演:シルヴプレ(柴崎岳志、堀江のぞみ)
  • 照明・音響:松田充博
  • 舞台監督:川俣勝人
  • 宣伝美術:高野瞳
  • 劇場:両国 シアターΧ
  • 評価:☆☆☆☆
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シルヴプレは大道芸では昨秋とこの一月に見ているが、舞台公演を観るのはこれがはじめてだった。芸を見せるという点では舞台公演のほうが大道芸よりはるかに条件がいいのは言うまでもない。しかし金を払って劇場まで足を運んでいる観客の期待値は当然大道芸よりもはるかに高いものになる。大道芸であれだけ面白いのだから、劇場公演ではそれ以上のものを期待するのはごく当然であるのだが、パフォーマンスの条件がよくなればその分面白いものになるとは限らないのが公演の難しいところだ。基本的に30分で構成される大道芸プログラムは回数を重ねていく内に練り上げられ、その30分の枠内で完結した世界を作り上げる。パントマイムの場合、5分から10分ほどのいくつかのプログラムを構成して一つの「番組」を作るので原理的には持ちネタの数だけ続けることは可能だろうが、大道芸という条件では観客の注意力、関心の持続という点でも30分ぐらいがちょうどよいのだろう。舞台公演では30分で終わりというわけにはいかない。パントマイムというスタイルで長時間にわたり観客を飽きさせないようにするには当然大道芸とは異なる構成のアイディアが必要になってくるはずだ。

シルヴプレの今回の舞台公演の上演時間は1時間だった。
期待を裏切らない面白い公演だった。大道芸では二人とも白の服装で5分から10分ほどのスキットを組み合わせたスタイルなのだけれど、舞台公演で彼らが提示したのは大道芸とは異なった世界だった。異なる世界ではあるけれどもシルヴプレのパフォーマンスの独創性、その方向性をはっきりと示す公演だったように思う。この舞台公演用に作られた台本のようだ。舞台公演に敢えて大道芸とは違うものを見せるという心意気が嬉しい。

舞台公演ではスモーク、照明効果、海にみたてた大布や背景に映し出されるスクリーン映像、それから一段たかくなった壇などを使っていた。衣裳の変更もある。しかし舞台公演の装置としては凝ったものは使われていない。
いろんなエピソードのアンソロジーではなく、60分を通して一つの物語の設定を維持しその枠内でいくつものエピソードを構成した作品であったことが意外だった。二人はパイロットとスチュワーデスという設定された人物を基本的に演じ続ける。出てくる登場人物は二人だけでしかも会話するのは禁じ手なのだから、物語の枠組みはごくシンプルなものになる。

筋の流れは以下のとおり。とある旅客機のパイロットとスチュワーデスが飛行機に搭乗する。このふたりの関係はあまり親密といった感じではない。二人が乗っていた飛行機が墜落して、二人はパラシュートで脱出、気がつくとどうようやら洋上にいるようだ。船をこいでとある陸地に到着。どうやら助かったようである。

最後のほうにペンギンの夫婦のエピソードが挿入されるがそれも二人が見る夢という枠内構造のなかに収められている。各エピソードごとに異なる仕掛けが導入されていて飽きさせない。特に感心したのは人形を使ったパフォーマンスだった。大人の胴体ぐらいの大きさで、登場人物を象った人形をつかって演じられたシークエンスのアイディアは素晴らしいものだった。

パントマイムの物語というと湿り気を帯びた叙情性、ペーソスとユーモアの世界を思い浮かべてしまうが(これはこれでいいものだ)、シルヴプレの笑いは徹底したファルス的なものであるのがかっこいいと思う。パントマイムに対する一般的なステレオタイプにはないナンセンスで乾いた喜劇性がある。ときに黒い雰囲気もさっと漂う大人のための洒脱な笑いの芝居である。
演じる対象の選択とそれを提示するやり方のアイディアに意外性がある。パントマイムの技術も素晴らしいのだろうが、その技術の高さを意識させないほど脚本と演出が優れている。大道芸公演でもそのプログラム構成はとてもよくできているのだけれど、今回の作品では様々な要素を一つの流れに乗せる脚本の構成力がとりわけ印象的だった。