閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

噺と節劇―劇的なるものをめぐって―

国立演芸場特別企画公演
公演情報 詳細|日本芸術文化振興会|

  • 落語「元犬」  三遊亭 兼好
    • 評価:☆☆☆☆
  • 落語「四段目」  桃月庵 白酒
    • 評価:☆☆☆☆
  • 節劇 国本武春:作 「忠臣蔵 ―愛の詩、神崎詫証文―」語り=国本武春(休演) 出演=玉川奈々福、浪花亭友歌、澤雪絵、玉川太福、東家一太郎
    • 評価:☆☆☆☆★
  • シネマ落語「天国から来たチャンピオン」 立川 志らく
    • 評価:☆☆☆☆★
  • 落語「鰍沢」―鳴り物入り―  五街道 雲助
    • 評価:☆☆☆★
  • 場所:国立劇序小劇場
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落語が前半二つ、後半二つ、これに節劇という浪花節による演劇が前半の最後に置かれるというプログラムだった。落語の演目も演劇的なものが選ばれているようだった。いろいろと興味深いところのあった公演だった。聞きにいってよかった。
最初は三遊亭兼好による落語「元犬」。八幡様によって人間になった犬の噺。もともと犬だったので「元犬」。人間にはなったものの、犬だった頃のクセが思わず出て、そこが笑いどころになっている。25分のうち、10分ほどがマクラ。最後はダジャレで終わる。時事ネタを織り交ぜたマクラの部分のほうが面白い。観客の引き込みかたの巧みさ、流石プロだなあと感心しながら聞いていた。「元犬」自体はそれほど演劇的な作りの噺というわけではなかった。
二番目は桃月庵白酒の「四段目」。おつかいをさぼって芝居見物をしたことが主人にばれた小僧がおしおきで土蔵に閉じ込められる。小僧は反省する様子もなくその土蔵のなかで自分が見た忠臣蔵「四段目」(浅野内匠頭切腹の場面)を演じ始めるというもの。これもマクラのほうが面白い。「四段目」の再現は歌舞伎の場面の物真似芸になっていた。
次が節劇(ふしげき)。浪曲の節つきで上演される芝居なので節劇と呼ばれるらしい。明治末から昭和初期頃に人気があった形態だそうだが、ずっと廃れていたという。浪曲師の国本武春が復活させようとしているらしい。これも忠臣蔵ものだった。舞台は書き割りが用いられ、演者は衣裳を着る。浪曲師の語りと唄に合わせて、別の演者がその場面を演じるというク・ナウカ形式のお芝居だった。お芝居の部分の様式は大衆演劇のものだった。国本武春は昨年末に大病していまも療養中で、浪曲の語りは玉川奈々福が代演した。浪曲の歌の美しさに魅了された。復活といっても実際には国本武春の創作に近いものだろう。客席への呼びかけ、演者同士の内輪ネタのギャグなどを織り込みつつ、ク・ナウカ形式と演者自身が台詞を喋り、浪曲が地の文を担当するなど複合的な構成で展開に変化をつけて、非常に面白い見世物芝居になっていた。
中入り後の最初は立川志らくのシネマ落語「天国から来たチャンピオン」の翻案の「たまや」。シネマ落語というものがあるというのは聞き知っていたが、実際に聞くのは今日が初めだった。マクラはごく短くさっと流しすぐに本題に入る。複数の人物のテンポのあるディアローグで構成された演劇的な噺だった。これは脚本が秀逸で物語の展開に引き込まれてしまった。語り口もスマートだ。キャラクターの設定もよくできている。まさに一人の人間による優れたダイジェスト版映画、芝居という感じ。
トリは五街道雲助による「鰍沢」。三遊亭円朝作と言われるが河竹黙阿弥作という説もあるという作品の来歴をさっと説明しただけで、すぐに本題に入った。地味で渋い語り方であったが、お話自体も地味で陰気な話だった。身延山参詣の帰り、吹雪で道に迷った江戸商人が山中の一軒家に宿を乞うとそこにはかつて吉原で花魁をした女がいて、その女と夫に命を狙われるという話。最後のほうで照明が落ち、背景のふすまが開く。ふすまの向こうは紙吹雪。鳴り物入りの芝居仕立てで最後の場面を歌舞伎風に演じて終わるという趣向の演出だった。三遊亭圓朝自身が初期にこういう演じ方をしたとか。簡易芝居としての落語。