閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ながめくらしつ「何かの中」;バーバラ村田と音の人「かたわれ〜Doppelgänger〜」

第2回人形演劇祭"inochi"※販売終了 特集『路上からのアプローチ』|調布市?せんがわ劇場?公演情報
ながめくらしつ「何かの中」

  • 演出・美術:目黒陽介
  • 出演:目黒陽介、松田昇、鈴木拓矢、森田智博、小春、長嶋岳人、横山知子
  • 評価:☆☆☆★
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バーバラ村田と音の人「かたわれ〜Doppelgänger〜」

  • 演出:村田朋未
  • 仮面美術:加藤知子
  • 出演:バーバラ村田、イーガル、空中紳士
  • 評価:☆☆☆★
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  • 上演時間:1時間
  • 劇場:仙川 調布市せんがわ劇場
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今回が二回目の開催となるせんがわ劇場での人形演劇祭"inochi"の企画公演の一つ、「路上からのアプローチ」を見た。大道芸で活躍するジャグラーと演奏家の共同ユニット、ながめくらしつの「何かの中」とバーバラ村田と音の人による「かたわれ〜 Doppelgänger〜」の二本立て。
バーバラ村田の「かたわれ」は昨秋、上野公園でのヘブンアーティストで見て大きな感銘を受けた作品である。仮面を使って一人演者が、一体から二体と分離する男女を舞踊+パントマイムで表現する幻想的で官能的な作品である。この作品を舞台で見られると言うことでとても楽しみにしていた。照明や音響の効果でさらに幻想が深まることを期待していた。

それぞれ三十分ほどの舞台だった。チケットは売り切れで会場は満員だった。

いずれも素晴らしいパフォーマンス、熱演ではあったけれど、いまひとつ物足りなさを感じた。こちらの期待が大きすぎたのかもしれない。

ながめくらしつはジャグラー四名、ミュージシャン三名のユニット。アコーディオンとサックスのトリオの奏でる音楽に合わせて、複数のジャグラーが協調して演技を行う。使うのは球と円盤。最初はゆっくりなめらかな動きのジャグリングから始まって、段々とスピード感のある複雑なジャグリングのコンビネーションに移行していく。単に芸を見せるというよりは音楽伴奏と舞踊的な動きを組み合わせて、なめらかなグラデーションのように芸が移行していく。

バーバラ村田の「かたわれ」の公演は今回はパーカション奏者の空中紳士とピアノのイーガルとの共演版だった。同じ仮面を使ったパフォーマンスではあるが、秋に上野公園の大道芸でみたものとはほぼ別の演目になっていた。イーガルは長身の男性だが女装して出てくる。仮面を持ってまず舞台上に現れるのは彼だ。次に登場するのはパーカションの空中紳士。彼の風貌もかなり独特でエキセントリックな雰囲気があった。ダラブッカというアラブ音楽で使われるワキで抱える太鼓の演奏をしながら、観客に軽くからんでくる。太鼓の演奏のなか、舞台中央に置かれた大型の古トランクからバーバラ村田が現れるという趣向だった。

音楽奏者との演奏との相乗効果で、ソロ公演以上のダイナミックな舞台になっていたかというと私は疑問だ。正直なところ、昨秋上野公園で見た大道芸版「かたわれ」のほうが今回の舞台公演版より私は好きである。
まず即興的な雰囲気のイーガルの音楽があまりにも不定形で曖昧な現代音楽風で私の好みではなかった。私はむしろべたべたの甘い旋律を持つわかりやすい音楽のほうがこのパフォーマンスには適合するように思った。さらに「かたわれ」はドッペルゲンガーという主題ゆえに一人の人間と仮面によって演じられるほうがよりドラマチックな効果を持つ作品であるように思った。
最初に一つの存在であったものから大きな苦しみを経てもう一つの人格が分離し、二つの存在として対峙し、激しく争い、求め合ったあげく、最期にまた一つに戻っていくというのがこの作品の大きな流れになる。バーバラ村田以外の演者の存在は「かたわれ」のドラマツルギーを弱めてしまうのだ。また照明効果などスペクタクル面の演出も舞台公演ならではの工夫はもっと取り入れる余地があるように思った。