閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

『ピーターとおおかみ』『ねぎぼうずのあさたろう』

人形劇団プーク
人形劇団プーク
ねぎぼうずのあさたろう

「ピーターとおおかみ」

  • 構成・演出:西本勝毅
  • 美術:児玉真理
  • 人形構造:川口 新
  • 音楽:ロバの音楽座(松本雅隆・上野哲生)
  • 音響効果:吉川安志
  • 評価:☆☆☆★
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  • 劇場:新宿 紀伊國屋ホール
  • 上演時間:90分(休憩15分)
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ねぎぼうずのあさたろう」は飯野和好の絵本が原作で、野菜や果物の擬人化による股旅もののパロディである。プークによる人形劇版を私は五年前、プーク人形劇場で娘と一緒に見ている。娘は五歳になる直前だった。この作品は私がはじめて見たプークの公演だった。それまで娘と見にいったいかにも子供だましといった感じだったいくつかの子供向け芝居とは一線を画す面白さで、娘と一緒に子供向け芝居に通うきっかけとなった作品だった。原作のキャラクター、絵柄、任侠もの時代劇というレトロな設定はとてもユニークだが、人形劇版でも原作の雰囲気を忠実に再現した演出になっている。浪曲師の国本武春が語りを担当するというのも洒落ている。五年前に見たときは併演が「ぼちぼちいこか」でこちらの音楽はギター、マンドリン、ポルトガル・ギターのデュオのマリオネットだった。人形造形や操作の素晴らしさだけでなく、劇音楽の質の高さにも当時とても驚いた。

今五歳の息子はそのころ生後五ヶ月だった。三月に「あさたろう」の再演があることを知ったとき、息子を連れてこの芝居を見に行くことをすぐに決めた。娘も連れて行きたかったのだけれど、学校が春休みに入るのが二十六日以降ということで諦めた。

「あさたろう」の原作は続きものになっていて、あさたろうとその相棒のにんにくのにすけの旅でのエピソードが連なっている。現在では八巻まで出ている人気シリーズだ。プークの人形劇版は前半の巻からいくつかのエピソードを再構成したものになっていた(と思う。絵本を読んだのが大分前なので記憶が曖昧)。人形は三、四歳児ほどのかなり大型なもので、出遣いで操作する。悪役には被り物の巨大な人形も登場する。あさたろうは悪い奴らを「ねぎ汁」でうちたおしながら失踪した父親のながきちの足跡を追いつつ旅を続ける。

五年前の舞台の細かいところはほとんど忘れてしまっていたが、演出、脚本にはかなり変更が加えられているような気がした。五年前のプーク人形劇場での舞台ではネギ汁を飛ばすときに、人形の頭の上から水をぴゅっぴゅっ出す演出が面白くて、その場面が劇中で何回かあったような気がしたのだけれど、今回の舞台では水が出るのは一回だけ、あとは吹き戻し(息を入れるとひゅるひゅると紙の筒が延びるおもちゃ)やばっと広がる蜘蛛の糸でネギ汁の場面を表してた。

大型の人形を使う芝居だが紀伊國屋ホールの間口の広い舞台よりも、やはりプーク人形劇場で見てみたい作品だ。人形劇のスケール、抽象的美術であの広い間口を埋めるは大変だ。しかしそれででも痛快、愉快、爽快な芝居で、私も息子も大いに楽しんで見た。

併演は「ピーターとおおかみ」、こちらはロバの音楽座による古楽器による演奏を使った無言劇。

平日十時半の回だったが、紀伊國屋ホールは半分くらいしか埋まっていなかった。東京の都市生活も混乱のなかにあるので芝居どころではないという気分もわかるけれど、こういうときだからこそ芝居を観るような心の余裕を持つことは大切なことのようにも思える。無邪気に見えるこどもも大人たちの不安とストレスを敏感に感じ取っているはずだ。演劇、映画などの興行はおおむねどこも大変な状況だろうが、踏ん張って乗り切って欲しい。