閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

『赤と黒と無知』『缶詰族』(エドワード・ボンド「戦争戯曲集−三部作」より)

座・高円寺 劇場創造アカデミー1期生 修了上演
修了上演

  • 作:エドワード・ボンド
  • 訳:近藤弘幸
  • 演出:イクタ ト サトウ
  • 出演:座・高円寺 劇場創造アカデミー1期生
  • 賛助出演:さとうこうじ
  • 上演時間:2時間半(休憩15分)
  • 劇場:座・高円寺

アカデミー1期生 スタッフ/出演
(舞台・演出班)古賀彰吾 小嶋一郎 萩原宏紀 森崎美弥子
(学芸班)川上直毅 佐々木琢
(制作班)砂川史織 前田佳子
(出演)安達修子 荒木秀智 大山晴子 黒田真史 島田健司 下村界 服部容子 保倉りえ 本木幸世 山本清文 山本称子 弓井茉那

                                • -

座・高円寺が運営する演劇学校、劇場創造アカデミー1期生修了公演を娘といっしょに見に行った。演目は英国の現代作家、エドワード・ボンドの「戦争戯曲集ー三部作」から『赤と黒と無知』、『缶詰族』の二作品。上演時間はそれぞれ1時間ほど。
エドワード・ボンドの芝居を観るのは今回が初めてだった。何年か前に串田和美が「エドワード・ボンドの『リア』」という作品を上演したということが頭にあるくらいで、作家についてもほとんど知らなかった。

もともとは見に行くつもりはなかった公演である。
高円寺びっくり大道芸のボランティアをやったときに、ボランティア・スタッフを統括していたのが劇場創造アカデミーの研修生だった。1期生は本来は3月に修了公演を行うはずだったのだが、震災のため修了公演が5月中旬に持ち越されたため、高円寺びっくり大道芸のボランティアにも参加していた。10歳の娘と同じグループでボランティアをしていた1期生の研修生2名が娘と仲良くなって、娘は彼女たちがこの修了公演に出ることを聞いてこの公演を観たいと言い出した。私はエドワード・ボンドにも関心がなかったし、研修生ともそれほど仲良しになったわけではないので、
「大人向きの戯曲だし、多分難しくてつまらないよ。見ても退屈してしまうに違いない」と言ったのだけれど、それでも見たいというので一緒に見に行くことにした。

演出は佐藤信と生田萬の共同演出。佐藤信の演出が私は苦手だ。演劇に対する高い理想、真摯な姿勢は感じるのだけれど、最近の若い役者を使った黒テントなどでの公演では彼の目指す地点と実際の表現レベルのギャップが激しすぎるというか、表現として消化不良な生硬で我慢を強いられる舞台が多かった。今回の芝居も、予想していた通り私とは相性があまりよくなかった。

前半は九つの連作短編小説のような作品だった。第一部『赤と黒と無知』では、パパゲーノみたいな扮装のモンスターを軸に核戦争のさなかのとある家族の情景が寓意的に描き出される。落ちのないグロテスクなコントといった感じ。照明は暗いし、意味がよくわからないし、内容にも興味が持てないしで私は10分ぐらいで脱落してしまう。
第二部『缶詰族』は核戦争後の世界が舞台。工場に大量に備蓄されていた缶詰を糧に生き残った少数のグループにある日、十数年ぶりに外部から人がやってくる。しかしその外部の人間を迎え入れたとたん、グループ内の人間が続けて突然死し、グループは恐慌に陥る。
これもストイックで象徴的な表現の芝居だった。テクストは極めて詩的ではある。しかし日本語で語られ、その内容は100%理解できるにも関わらず、役者たちから発せられた言葉はことごとく頭の上を通り過ぎて残らない。まるで意味のわからないお経を聞いているような感じだ。台詞には詩的な表現が豊富だが、あれを舞台から観客に届けるには朗唱法、演出にもっと何らかの工夫が必要だと思う。演出には遊びが感じられない。生真面目な雰囲気、単調で仕掛けに乏しい。
唯一無二の上演機会にかける研修生たちの真摯な思いは伝わってくる舞台ではあったが私は残念ながら心から楽しむことはできない舞台だった。

これはさぞかし娘にとっては苦痛に違いない、と思ったのだけれど、娘はこの難解な舞台を眠ることなく注視し続けていた。うーん、成長したんだなあと思う。もちろん内容は娘にとってはちんぷんかんぷんだったろうが。私も正直なところほとんど内容を把握できていない。彼女の知り合いの役者が出演する際には私が起こされてしまった。

「お友達」の役者2名のために、娘はイラスト付きのカードを作成し、行きしなにラッシュに寄って入浴剤を2種類ずつ購入して、入場前、カードと共にそれを受付に託していた。公演が終わってロビーでアンケートを書いていると、先ほどまで舞台に出ていた「お友達」の役者二人がやって来て、彼女たちと言葉を交わすことができた。カード付きの贈り物を二人はとても喜んでくれていた。

「修了公演って本当にいいもんだねえ」と帰りの地下鉄で娘が言っていた。来年3月に行われるだろう劇場創造アカデミー2期生の修了公演も観てみたくなったそうだ。ふーん。

                                    • -

娘がこの公演のことを学校に提出する日記に書いていた。親バカ丸出しではあるがいい内容だと思う。以下一部引用しておく:
劇場創造アカデミーの一期生の修了公演を見に行ったのです。かんけいないようですが、きっかけは大道芸です。その時の昼食の時にこの公演の話をしてくれました。きょうみを持ったのでお父さんにたのみ、チケットを予やく。その後、チケットは売り切れたそうです。やったのはエドワード・ボンド作「赤と黒と無知」「缶詰族」です。わたしのお父さんもわからなかったぐらい、とってもむずかしい作品です。でも動作だけでもなんだか分かる気がしました。どちらも戦争の話で「赤と黒と無知」は戦争中、「缶詰族」は戦争後の話です。なんだか、ざんこくでせつない話です。そして、大道芸でお世話になったHさんとOさんにおくりものをしました。今日の公演に出た人がさ来年ぐらいにどこかのげき団員としてがんばっているすがたを見てみたいです。