閑人手帖

このブログは私が見に行った演劇作品、映画等の覚書です。 評価、満足度を☆の数で示しています。☆☆☆☆☆が満点です。★は☆の二分の一です。

ふじのくにせかい演劇祭と「タカセの夢」について

6/5にSPAC(静岡県舞台芸術センター)主催のふじのくにせかい演劇祭に行き、「野田版真夏の夜の夢」、「タカセの夢」、「エクスターズ」と三本の作品を一日で見た。いずれもとても面白い作品だった。特によい作品を見たときなど印象が混ざり合ってしまうのが嫌で、私は一日に複数の舞台作品はなるべく見ないようにしているのだけれど、今回は三本それぞれ作者・演者の個性が強く出たユニークな作品にも関わらず、「夢」をキーワードに一つの調和した世界を提示しているようにも思えた。私のなかで作品の印象が喧嘩して不協和音を奏でていない。

個人的な好みから言えば、1番が「エクスターズ」、2番が「タカセの夢」、3番が「野田版真夏の夜の夢」ということになるが、この三作品のなかでどれについて一番語りたいかというとそれは、カメルーン出身のダンサー、振付師ニヤカムの指揮のもと選抜された10名の静岡の中高生によって演じられた「タカセの夢」だ。

SPAC文芸部の横山氏が昨年の初演時にこの作品について書いた文章を読んだとき、再演時には何としてもこの作品を見てみたいと思った。横山氏の文章だけで感動的な作品であることは確信していたのだけれど、実際に舞台を見てみると予想していた以上の素晴らしさに観劇後は感想の言葉も浮かばない。思春期の少年と少女たちのあの伸びやかで自由で多彩な表現にくらくらした。
http://spac.or.jp/blog/?cat=22
「タカセの夢」の感想については改めて別に書こうと思うが、一地方劇場の企画で地元の子供を集めて作った舞台があのレベルの表現に達するというのは、大げさな言い方ではあるが、ちょっと奇跡のようにも思えるのだ。もともとバレエや新体操の経験があり、それなりのポテンシャルを持っている子供が選抜されたのだろうが、静岡のごく普通の子供たちがニヤカムという天才的な指導者と出会うことでモンスターになっていく過程を目の当たりしていた現場の人たちは恐怖感のようなものさえ感じなかっただろうか。教育ってのは恐ろしい力を持っているものだと思った。

今日見た三作品にはいずれも天才の仕事だと思った。しかも作品の芸術的クオリティの高さにも関わらず、門戸が広く開かれているのも驚くべきことだ。老若男女、あらゆる年齢層の人が祝祭的非日常を楽しむことができる作品ばかりだった。実際、同じような雰囲気の客ばかりが集まりがちな東京の公演とは異なり、静岡の観客の層は実にバラエティに富んでいた。宮城聰氏がSPACの芸術監督について今年が四年目か五年目だと思うが、SPACは地方にある公共劇場として前人未踏のすごいところに到達しつつあるような気がする。一日に三本まとめて傑作を見て戻ってきたところなのでその興奮の余韻で誉めすぎてしまったかもしれないけど。私立の劇場でユニークな活動を行っているところはあるけれど、SPACはやはり公立の公共劇場であるからこそできる可能性を追求しているように思う。こういった感じで地方の劇場が特色ある企画を行い、作品を制作し、それぞれが互いに競争する環境を用意できる可能性を考えると、やはり劇場法って成立したほうがいいような気もする。

八月に「タカセの夢」の公演が東京のシアタートラムである。8/10、/11の二日間、二回だけの公演だ。
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2011/08/post_234.html
この「静岡の奇跡」をできるだけ多くの人に確認してもらいたいように思う。
私も東京でもまた見たいのだけれどこの日程はあいにく関西に帰省中。
この二回の公演、シアタートラムが一杯になりますように。